ベラ・C・ルービン天文台の始動に Kavli IPMU の研究者も協力

2025年6月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)


ベラ・C・ルービン天文台は、世界最大のデジタルカメラによる観測画像を2025年6月23日(現地時)に初公開しました。今後、このカメラを用いた大規模撮像探査プロジェクト「LSST(Legacy Survey of Space and Time)」が本格的に始まります。LSST には、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI) や国立天文台の研究者を含む日本の研究者も多く参加しており、これから、すばる望遠鏡との連携による新たな科学成果が期待されます。

図1. ベラ・C・ルービン天文台から初公開された画像のうちの1枚。LSST カメラが捉えたおとめ座銀河団のごく一部(視野の2パーセント)を示す。2つの目立った渦巻(うずまき)銀河(右下)や、合体中の3つの銀河(右上)、遠方の銀河群のほか、天の川銀河内の多数の恒星などが映っている。(Credit:NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory)

 

NSF-DOE ベラ・C・ルービン天文台(以下、ルービン天文台)()は、米国が主導し、南米チリ共和国のセロパチョン山に建設された次世代の天文観測施設です。口径8.4メートルの光学赤外線望遠鏡と32億画素の「LSST カメラ」の組み合わせは、8メートルクラスの望遠鏡としては最大の視野を持ち、満月45個の広さに相当する範囲の空を一度に観測できます。

LSST カメラを用いた大規模撮像探査プロジェクト「LSST」は、2025年後半から10年間にわたり、可視光線から近赤外線の波長域で南半球の空全体(約2万平方度)を繰り返し撮像し、データを蓄積します。この壮大で野心的な計画から、太陽系小天体、銀河、超新星、ダークマターなど、幅広い分野での新たな発見が期待されています。

この国際的なプロジェクトに、日本の研究者も積極的に参加しています。日本の研究グループは、特に、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)によって広視野撮像探査で世界をリードしてきました。その経験と実績、さらにすばる望遠鏡の観測時間の提供も含めた貢献が評価され、LSST の貢献メンバーとして認められています。Kavli IPMU からは、安田直樹(やすだ なおき)教授や高田昌広(たかだ まさひろ)教授をはじめとした研究者らが参加。国立天文台からは内海洋輔(うつみ ようすけ)准教授をはじめとした研究者らが LSST に参画しています。特に安田教授は HSC のデータ解析用パイプラインソフトウェアの開発経験を生かして LSST のパイプラインの開発にも携わってきました。日本の研究者コミュニティは、審査の上で優先データアクセス権を取得していて、今後の LSST を見据えた研究を開始しています。

ハワイのすばる望遠鏡では、2025年から Kavli IPMU も主導機関の一つとして参画してきた超広視野多天体分光器 PFS(Prime Focus Spectrograph、プライム・フォーカス・スペクトログラフ)の運用が始まりました。撮像探査に特化したルービン天文台と、超広視野分光という新たな力を備えたすばる望遠鏡との連携で、天文学の新たな地平が切り開かれようとしています。

図2. ベラ・C・ルービン天文台から初公開された画像のうちの1枚(拡大縮小移動可能)。おとめ座銀河団全体を捉えたこの画像は LSST カメラの視野の 2.4 倍に相当。この画像には約 1000 万個の銀河が含まれており、これは LSST が今後 10 年で撮影する約 200 億個の銀河の約 0.05 パーセントにあたる。静止画はこちら。 天体名が記された画像はこちら。(Credit:NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory)

 

安田教授は LSST の観測開始について、
「東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡による写真乾板での観測を皮切りに、木曽モザイク CCD カメラ、スローン・デジタル・スカイサーベイ、すばる望遠鏡の Suprime-Cam や Hyper Suprime-Cam によるサーベイ観測など、私はこれまで広視野撮像観測に携わってきました。

そしていよいよ、究極の観測プロジェクトとも言える「LSST」が始動します。ハードウェアとソフトウェアの両面における技術の進歩の結晶として、これまでで最も広い視野、最も高い解像度、そして最も暗い天体まで、これまでにない精度で観測可能なデータが得られる時代が到来しようとしています。

さらに、同じ領域を10年間にわたり繰り返し観測することによって、これまでにない数の変動天体が発見されると期待されています。未知の希少天体が見つかる可能性もあり、これまでのデータでは明らかにできなかった天体の統計的性質についても、新たな知見が得られるでしょう。

しかし、宇宙の本質により深く迫るためには、PFS などを用いた分光観測が不可欠です。すばる望遠鏡との連携を通じて、宇宙の謎を解き明かすことを楽しみにしています。」と述べています。
 

また、国立天文台の内海准教授は、「LSST の観測開始は、超広域サーベイ天文学、時間領域天文学にとって画期的なマイルストーンです。私自身、15年以上前に HSC の開発に参加し、現在は LSST の一員として携わって8年になります。20年以上にわたる技術的進展と、すばる望遠鏡およびアメリカを中心としたコミュニティによる国際的な協力の積み重ねが、この新たな人類の「目」を生み出したことに、深い敬意と誇りを感じています。今後、LSST がもたらす新たな発見と科学の扉の広がりを楽しみにしています」と述べています。
 

図3. LSSTカメラを搭載したベラ・C・ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡。夜空に向けた初エンジニアリング観測が行われた2025年4月15日に撮影。(Credit: RubinObs/NSF/DOE/NOIRLab/SLAC/AURA/Hernan Stockebrand)

 

)NSF-DOE ベラ C. ルービン天文台は、米国立科学財団(NSF)および米国エネルギー省科学局(DOE Office of Science)の支援により、設立・運営されています。
 

関連リンク
ベラ・C・ルービン天文台 の2025年6月23日 プレスリリース
ベラ・C・ルービン天文台の始動に国立天文台の研究者も協力 (国立天文台の記事)
ベラ・C・ルービン天文台の始動に国立天文台の研究者も協力(すばる望遠鏡の記事)
ベラ・C・ルービン天文台の始動に名古屋大学の研究者も協力 (名古屋大学素粒子宇宙起源研究所の記事)


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