Profile 04 石垣 美歩 (いしがき みほ)


名前: 石垣 美歩 (いしがき みほ) :天文学
出身地: 宮城県東松島市
「私の出身地の海岸沿いは2011年の東日本大震災で津波に襲われましたが、私の家族は内陸に住んでいたので無事でした。」
職位: Kavli IPMU 特任研究員
おすすめの書籍:  “Galactic Dynamics” (second edition) 著:James Binney, Scott Tremaine
日本で好きな場所:東松島市
「私の出身地である東松島市をお勧めしなければと思います。お寿司も海産物も素晴らしいですし、とても新鮮ですよ。」
 

Kavli IPMU で現在行っている研究について教えてください。

天の川銀河に存在する古くて長寿命の星の元素組成に特に関心があります。そのような星の化学元素を研究することで、その星の更に前の世代の星で起きた超新星爆発で作られる元素について垣間見ることができます。

古い星は初代星の性質に関するヒントを与えてくれます。宇宙に初代星が存在する以前には、星は存在しておらず宇宙は真っ暗でした。私は初代星の性質や、初代星の超新星爆発で生成され放出されたのは、どういう種類の元素だったのかを知ることに関心があります。古い星の元素組成を研究することで、それより前の初代星について調べることができるのは、とても驚くべきことです。それは、古い星が宇宙初期の様子を記録した化石のようなものだからです。

天の川の周囲にある沢山の古い星の軌道運動を探ると、これらの星がどこからやって来たのかを予測することもできます。元素組成と星の運動の情報とを組み合わせることで、我々の銀河系がどのように形成されたのかを再現する強力な手がかりになります。

 
どんなきっかけで天文学者になろうと思ったのでしょうか?

私の故郷は至るところに田んぼの広がる東北地方で、星が沢山見える素晴らしい場所です。小さい頃、私は星座の星を辿ったり、小さな望遠鏡で星を観測するのが大好きでした。高校生になると、星に関する本を読むようになって、仕事として星を追い求めていきたいと真剣に考えるようになりました。

他の仕事と異なり、天文学者の仕事は自分の興味をひきました。それは、天文学者という人達が、手に触れたり届かない事に取り組む日々を過ごしていたためです。つまりどういうことかというと、観測データを用いて、天体の場所がどれくらい離れているかといったことや、その天体がどういった特性を持つかを見積もるという、創造的手法を人々が見つけ出していた分野だったからです。

 
研究活動の背景を教えて下さい。

学部、修士、博士課程と全て異なる分野にいました。大学の時、天文を学ぶプログラムに入るのに必要な点数を取ることが出来なかったのですが、物理学が天文学の基礎にあると知っていたので、国際基督教大学で物理の学位を取得しました。その後、東京工業大学で次の2年間、赤外線天文学のプロジェクトに携わりました。そして、博士号取得のために進学した東北大学に移ってから、現在も続けている天文学の分野の研究を始めました。

博士号取得後に国立天文台で働いている時には、星の化学組成を推定するため望遠鏡からの観測データを解析する事に携わっていました。しかし化学組成の研究の意義を理解するにあたっては、理論の研究者と一緒に仕事をしたことが自身の理解を深めることにつながったと思います。


Kavli IPMUで働いていて気に入っていることは何でしょうか?

私はいつも自分のような実験の研究者に囲まれてきましたが、理論の研究者が沢山いる場所に来たこと自体が私にとってとても新鮮なことです。理論の研究者の方達の仕事の話を聞いて、彼らがとても面白いことを見つけていたり、私が全然注意を払っていなかったことに気づかされたりして、時々驚かされることがあります。こうしたことは、自分の仕事を進めていく上でとても良い経験となっています。

その上、人間性にも違いがあるようです。例えば、天文学者は時に、ある事象に対して強く一般化して述べることがあります。私達は、肯定的な結果が出ると、全体的に充分満足なものとして捉えます。しかし、それは物理学者からすると時に不十分なようです。物理の方は、あらゆる可能性を検討して、詳細を突き詰めることを大変好みます。でも、それにより私の仕事も磨かれるので、これもまた良い経験です。


これからの研究活動について教えて下さい。

私は現在、化学元素に注目し、第一世代の星でどのようにして化学元素が生み出されていったのかを研究しています。今後は、銀河にある星をより沢山調べて、化学元素がどのように宇宙に分布していったのかを明らかにしたいです。そうすることで、私たちの銀河系がどのように形成されていったのかに関して制限を与えるような発見の可能性もあるかもしれません。

ちょうど今、すばる望遠鏡に設置するため超広視野分光観測 Prime Focus Spectrograph (PFS) の準備が進められています。2, 3年の運用期間を経れば、銀河系の外縁にある星の化学元素について初めて調べられる可能性があります。データを用いることで、銀河系がどのように形成されたかに関する、より強い制限を与える発見を期待しています。
 

研究内容はどこで拝見できますか?

下記のリンクからオンラインで論文をご覧いただけます。あとは私の研究チームの仕事は Kavli IPMU のウェブサイトでニュースとしても取り上げられています。

http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0004-637X/753/1/64/pdf
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/0004-637X/771/1/67/pdf
http://iopscience.iop.org/article/10.1088/2041-8205/792/2/L32/pdf

鉄の見つからなかった星、宇宙初期のブラックホール生成の痕跡と判明 (Kavli IPMU ウェブサイト)
http://www.ipmu.jp/ja/node/1992