戸田幸伸特任准教授、2012年度幾何学賞を受賞

2012年9月18日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(略称:Kavli IPMU)

戸田幸伸特任准教授近影戸田幸伸特任准教授近影

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の戸田幸伸(とだ ゆきのぶ)特任准教授が日本数学会の2012年度幾何学賞を受賞しました。

幾何学賞(きかがくしょう)は、日本数学会幾何学分科会により1987年に創設されました。微分幾何学、位相幾何学や代数幾何学を含む広い意味での幾何学の研究において、目覚ましい業績、長年にわたる重要な業績の累積、また著書等によって後進へのよき指針を与えた人物に贈られます。

受賞題目:導来圏の安定性条件とDonaldson-Thomas不変量の研究

受賞理由:代数多様体上の連接層の導来圏は、超弦理論、非可換代数、シンプレクティック幾何などにかかわる種々の分野の対称性を体現する興味深い研究対象です。2002年ころにBridgeland の導入した導来圏の安定性条件は、ベクトル束の安定性条件を導来圏の上に自然に拡張したものです。しかしコンパクトな Calabi-Yau 3-fold に Bridgeland の意味での導来圏の安定性条件が存在するかでさえ、今もって未解決の問題です。戸田氏はこの条件を修正して「極限安定性条件」や「弱安定性条件」を導入してコンパクトな Calabi-Yau 3-fold の上にそういった安定性条件が存在すること、そして Donaldson-Thomas 不変量への目覚ましい応用を与えることに成功しました。たとえば導来圏の部分圏で1次元層と Calabi-Yau 3-fold の構造層で生成される部分圏における弱安定性条件が、ある安定性のパラメータについては Pandharipande-Thomas の安定対の理論、一方で他のパラメータについては Donaldson-Thomas 理論に対応することを示しました。さらにこの弱安定性条件での壁越え理論を適用することにより、Pandharipande-Thomas 予想のオイラー数版を証明しましたが、Berhrend-Getzler によりアナウンスされた結果と併せると、Pandharipande-Thomas 予想の実質的な解決を与えるものでした。また、彼と Bayer-Macri らとの共同研究による、Bridgelandの本来の安定性条件の候補の構成と、Bogomolov-Gieseker 不等式との関係についての結果も高く評価されています。

受賞業績:代数多様体上の連接層の導来圏は、超弦理論、非可換代数、シンプレクティック幾何などにかかわる種々の分野の対称性を体現する興味深い研究対象です。2002年ころに Bridgeland の導入した導来圏の安定性条件は、ベクトル束の安定性条件を導来圏の上に自然に拡張したものです。しかしコンパクトな Calabi-Yau 3-fold に Bridgeland の意味での導来圏の安定性条件が存在するかどうかでさえ、今もって未解決の問題です。戸田氏は2007年に、Bayer とは独立に、Calabi-Yau 3-foldの「極限安定性条件」を導入し、これは Bridgeland による安定性条件とは定義が異なりますが、 Pandharipande-Thomas の安定対の理論と深い係わりをもち、さらに1998年ころにDonaldson-Thomas によって提唱された Calabi-Yau 3-fold上の曲線の数え上げ理論である Donaldson-Thomas 不変量と安定対の理論との対応に関する Pandharipande-Thomas 予想の解決の端緒を与えるものでした。一方、これとは別に、安定性に依存した Donaldson-Thomas 不変量のような量が、安定性のパラメータを変えたときの振る舞いの研究がJoyce によって行われており「壁越え理論」と呼ばれるが、当時面白い応用があまり知られていませんでした。最近、戸田氏は  Bridgeland の安定性条件を修正して導来圏の「弱安定性条件」を導入し、Calabi-Yau 3-fold上ではそうした安定性条件が存在すること、そして Donaldson-Thomas 不変量への応用を与えることに成功しました。たとえば導来圏の部分圏で1次元層と Calabi-Yau 3-fold の構造層で生成される部分圏における弱安定性条件が、ある安定性のパラメータについては Pandharipande- Thomas の安定対の理論、一方で他のパラメータについては Donaldson- Thomas 理論に対応することを示しました。さらにこの弱安定性条件での壁越え理論を適用することにより、Pandharipande-Thomas 予想のオイラー数版を証明し、Berhrend-Getzler によりアナウンスされた結果と併せると、Pandharipande-Thomas 予想を実質的に解決しました。また、彼と Bayer-Macri らとの共同研究による、Bridgelandの本来の安定性条件の候補の構成と、Bogomolov-Gieseker 不等式との関係についての結果も高く評価されています。

戸田幸伸特任准教授 略歴

1998年3月 秋田県立大館鳳鳴高校卒業
2002年3月 東京大学理学部数学科卒業
2004年3月 東京大学大学院数理科学研究科修士課程修了
2006年3月 東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了
2006年4月 日本学術振興会特別研究員PD
2008年1月 東京大学数物連携宇宙研究機構特任助教
2008年11月~現在 東京大学数物連携宇宙研究機構特任准教授
(2012年4月より東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)

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