新たな高性能画像診断機器、医療用コンプトンカメラの臨床試験に成功 ―PET薬剤とSPECT薬剤の同時計測・画像化に成功―

2019年7月24日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

1. 発表内容
群馬大学重粒子線医学研究センターの中野隆史特別教授を中心とした、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の高橋忠幸教授 、量子科学技術研究開発機構(QST)の河地有木プロジェクトリーダー、宇宙航空研究開発研究機構 (JAXA) の渡辺伸助教らの共同研究グループは、開発を進めてきた医療用コンプトンカメラを用いて世界で初めてとなる人での臨床試験を実施しました。核医学診断薬剤 (18F-FDG(PET薬剤)と99mTc-DMSA(SPECT薬剤))の2種類の薬剤を同時に被験者へ投与し、コンプトンカメラで測定。それら薬剤が特定臓器に集積している様子を1台のコンプトンカメラで同時に可視化することに成功しました。
 


現在、がんの診断や臓器の機能検査を行うためには、PET(陽電子放射断層撮影装置)やSPECT(単一光子放射断層撮影装置)と呼ばれる装置が必要不可欠です。しかし、これらの装置には性能的に幾つかの限界があります。例えば、PET は特定のエネルギー(511キロエレクトロンボルト:keV)のガンマ線を出す陽電子放出核種しか測定できません。一方、SPECT は金属製のコリメータの放射線遮蔽能力の制約から、低いエネルギーのガンマ線しか利用されてきませんでした。研究グループは、新たな画像診断機器として、1台で幅広いエネルギー範囲のガンマ線を複数同時に識別して測定できる「医療用コンプトンカメラ」の開発を行いました。本研究で使用したコンプトンカメラは、Kavli IPMU の高橋教授を中心とする研究グループが長年にわたり開発を続けてきた Si/CdTe コンプトンカメラをもとにした装置であり、宇宙からのガンマ線を観測するために JAXA が中心となって開発した技術を転用しています。シリコン(Si)とテルル化カドミウム(CdTe)の半導体をコンプトンカメラを構成する放射線検出素子として用いることで、放射線識別用のコリメータを必要とせず、広いエネルギー範囲のガンマ線を、精度よく識別しながら、効率よく検出することができます。また、本研究のガンマ線データの画像解析は,Kavli IPMU の武田伸一郎特任助教が中心となり開発した、独自の近距離用のコンプトン画像再構成アルゴリズムを用いています。このように、コンプトンカメラ及び画像解析技術の開発にあたっては、Kavli IPMU の高橋教授や武田特任助教も大きく貢献しています。
 

これまで、マウスなどの小動物を用いた測定については多数の報告が有りましたが、臨床試験が実施された例はありませんでした。今回のコンプトンカメラを用いた世界初の臨床試験では、最も汎用的な PET 薬剤である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)と、腎機能検査で一般的に使用される SPECT 薬剤である99mTc-DMSA(2,3-ジメルカプトコハク酸)の2種類の薬剤を被験者に同時投与しました。これらの薬剤は被験者の体内でそれぞれ肝臓と腎臓に集積します。そして、集積した臓器内からそれぞれ別々のエネルギーのガンマ線を放出します。この2種類のエネルギーを持つガンマ線を同時に測定した結果、18F-FDGで肝臓を、99mTc-DMSAで腎臓を、二次元画像として同時に可視化することに成功しました。これにより、従来 PET 及び SPECT による二つの画像診断を、一台のコンプトンカメラで実現できることを実証しました。


PET 装置と SPECT の測定原理は異なっているため、これまでは両方の診断装置を用意し、別々に測定する必要が有りました。本技術により PET 検査と SPECT 検査の期間短縮や患者被曝量の軽減化につながります。また複数機能同時検査等の実現によって、新たな診断技術の発展が期待されます。さらには、新たな放射性核種を用いた薬剤の開発も可能となるなど、これまでにない診断・治療技術の展開が期待されます。この成果は、医学物理学の分野の国際雑誌である 「Physics in Medicine and Biology」のオンライン版に日本時間2019年7月20日に掲載されました。

本研究成果に関する詳細は、群馬大学のプレスリリース記事をご覧ください。

2. 発表雑誌
雑誌名:Physics in Medicine and Biology
論文タイトル:Imaging of 99mTc-DMSA and 18F-FDG in humans using a Si/CdTe Compton camera
著者: Takashi Nakano, Makoto Sakai, Kota Torikai, Yoshiyuki Suzuki, Shin-ei Noda, Mitsutaka Yamaguchi, Shin'ichiro Takeda, Yuto Nagao, Mikiko Kikuchi, Hirokazu Odaka, Tomihiro Kamiya, Naoki Kawachi, Shin Watanabe, Kazuo Arakawa, Tadayuki Takahashi
 

(報道対応)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください


関連リンク
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ガンマ線イメージングの医学応用 (Kavli IPMUのリサーチプロジェクトページ)