素粒子実験や宇宙観測など,宇宙への根源的な疑問に答えるために高い科学目標を掲げて実施される研究は,感度と分解能のたゆまぬ追求の結果として,極限性能を持つ先端的検出器の研究開発を牽引してきた。カブリIPMUでは宇宙観測から生まれた宇宙硬 X 線・ガンマ線イメージング技術を適用し,発展させ,医学や薬学の研究者と連携して核医学,特にがん研究への加速的応用をはかることを目的とした研究を進めている。
核医学は放射性核種をがんなどの組織に送り,放出されるガンマ線を体外からイメージングした結果を診療に役立てる医学である。核医学イメージング は,CT や MRI,超音波検査などと異なり,形態の異常ではなく,臓器など体内内部組織の活動性・機能性を非侵襲的に定量化することができる手法として位置付けられている。
近年,がんの様々な性質を,がん幹細胞の存在によって理解しようとする考え方がある。それは,がん組織は,自己複製能力を持ち半永久的に子孫の細胞を作り続けることのできる少数の細胞(がん幹細胞)と,最終的には分化や老化を起して増殖能を失う大多数の細胞の二群から構成されているというものである。がん幹細胞は既存の抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示すため,放射性同位体でこれらを標識したのちに実験小動物に投与し,がん幹細胞のみを選択的にイメージングできれば,生体内でがん幹細胞の増加,減衰を薬剤の投与と共にモニターするといった研究が可能になる。
我々は,世界に先駆けて開発したテルル化カドミウム半導体イメージャを用い,数10 keV から500keV までの連続的な範囲で 100-数100μm の生体内画像分解能を持ち,がん細胞の集積度や腫瘍の形状を研究できるような生体内ガンマ線3Dイメージング装置を開発することをめざした研究を進めている。がん幹細胞を標的とする放射性薬剤の研究をあわせて行い,装置と共に実際の医学研究の分野に新たな手法を提示するのが目標である。先端的宇宙観測の医療応用は,社会への直接的貢献となるだけでなく,要求性能実現のためのさらなる開発研究が,将来の加速器実験や宇宙観測衛星実験に必須な検出器技術の先鋭化・高度化を駆動することが期待される。
(Last update: 2022/02/09)
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