2026年7月22日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)
1. 発表内容
ニューヨーク州立大学 (SUNY) 工科大学准教授で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)客員准科学研究員でもある Shing-Chi Leung (シンチー レオン) 氏を中心とし、Kavli IPMU の野本憲一 (のもと けんいち) 客員上級科学研究員と Alexander Kusenko (アレクサンダー クセンコ) シニアフェローが参加する研究チームは、原始ブラックホールが引き金となり白色矮星がIa型超新星として爆発を起こす際、特定の化学組成の傾向を生じさせる可能性があることを明らかにしました。
PBH が通過する際、その重力によって生じる潮汐相互作用によって、白色矮星内部の縁辺部の物質を加熱する。加熱された物質が閾値 (約5億ケルビン) に達すると、力学的平衡状態での炭素の燃焼による発熱量がニュートリノによる冷却を上回り、制御不能な燃焼が引き起こされる。燃焼領域が十分に広がると、加熱された物質は局所的な熱核連鎖反応を引き起こし、これが引き金となって Ia 型超新星の爆発が起こる。(Credit: Generated using Gemini Al (Banana Pro))
原始ブラックホール (PBH) は、宇宙初期のインフレーション時に生じた物質の初期ゆらぎから形成されたと考えられています。また、PBH は、宇宙の物質の約90%を占めるとされるダークマターの候補の一つとされています。先行研究によれば、PBH が宇宙空間を走り恒星の中を通り抜けることがあり、その重力で生じた潮汐相互作用によって白色矮星が Ia 型超新星 (SNe Ia) として爆発を起こす可能性が示唆されていました。
研究チームは、PBH が引き金になる星の爆発という新たなシナリオに基づき、超新星の力学的、光学的及び化学的な特性について研究を進めており、同チームが2025年に発表した研究によれば、PBH が引き金となった白色矮星の爆発によって、標準的な Ia 型超新星モデルに非常によく似たIa型超新星が引き起こされることを示していました。
今回の新たな研究では、超新星残骸 (ティコ、ケプラー、3C 397)、近傍の超新星 (SN 2011fe や SN 2012cg など)、そして天の川銀河の恒星の化学組成との比較検討を行いました。その結果、PBH によって引き起こされる Ia 型超新星が、これらの天体で観測されたいくつかの特性を良く説明できることを示しました。また、ニッケル56 (Ni-56) やニッケル57 (Ni-57) などの放射性同位体元素や、マンガン (Mn) やニッケル (Ni) などの安定元素を調べることで、これらの超新星や超新星残骸の起源となった恒星の質量と金属量(恒星が形成された時の金属、すなはち重元素の量であり、宇宙の歴史の中でいつその恒星が誕生したのかを示す指標)を特定しました。さらに、この爆発が銀河の化学進化にどのような役割を果たしたかを調べた結果、天の川銀河の恒星に見られる化学組成の傾向を説明するには、PBH を起源とする Ia 型超新星が一定の割合で存在する必要があることも明らかにしました。
研究チームは今後、これらの超新星が、従来の超新星の出現数や、突発的な天体現象の発生率にどのような影響を及ぼすのかを解明するため、研究範囲をさらに広げていく予定です。
チームを率いた Shing-Chi Leung 氏は、「私たちの研究は、超新星の一部が PBH がきっかけで引き起こされた可能性を示唆しています。PBH という捉えどころのない天体を直接観測することはできないとしても、その性質を探るための興味深い手がかりは自然界に数多く残されているようです」と述べています。
2. 発表雑誌
雑誌名:The Astrophysical Journal
論文タイトル:Primordial Black Hole Triggered Type Ia Supernovae II: Comparison with Supernova Remnants and Galactic Chemical Evolution
著者:Shing-Chi Leung (1, 5), Seth Walther (1, 2, 3), Alexander Kusenko (4, 5), Ken’ichi Nomoto (5), Tomoharu Suzuki (6)
著者所属:
1 Department of Physics, SUNY Polytechnic Institute, 100 Seymour Road, Utica, NY 13502, USA; leungs@sunypoly.edu
2 Department of Mathematics, SUNY Polytechnic Institute, 100 Seymour Road, Utica, NY 13502, USA
3 Department of Electrical and Computer Engineering, SUNY Polytechnic Institute, 100 Seymour Road, Utica, NY 13502, USA
4 Department of Physics and Astronomy, University of California, Los Angeles California, 90095-1547, USA
5 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
6 School of General Education, Chubu University, 1200 Matsumoto-cho, Kasugai, Aichi 487-8501, Japan
DOI: 10.3847/1538-4357/ae6db7 (2026年6月20日掲載)
論文のアブストラクト (The Astrophysical Journal のページ)
プレプリント (arXiv.org のページ)
関連リンク
SUNY Poly Researchers Explore Supernova Origins Through Primordial Black Holes
“Primordial Black Hole Triggered Type Ia Supernovae. I. Impact on Explosion Dynamics and Light Curves”, The Astrophysical Journal 991, 11 (2025)
arXiv: https://arxiv.org/abs/2507.21041
ApJ: https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/adf4e8
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