Kavli IPMU、BelleⅡ実験に参加

2012年11月21日
カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

2012年11月、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) は、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)で2014年から開始する国際共同実験、Belle II(ベルツー)の共同研究機関となりました。また、Belle IIの前身である、Belle(ベル)実験にも加わることが決定しました。

Belle IIは、15の国と地域からの約400名の研究者が参加する国際共同実験です。現在KEKB加速器の性能を40倍向上させるSuperKEKB(スーパーケックビー)プロジェクトが推進されており、これに合わせて新しい測定器、Belle IIの開発が行われています。
またBelleは1999年から2010年にかけて行われた、KEKB加速器で大量生産されたB中間子および反B中間子の崩壊現象を精密に測定する実験で、2001年にはB中間子におけるCP対称性の破れを発見し、小林・益川両氏の2008年ノーベル物理学賞受賞に大きく貢献しました。2010年までに取得されたデータを用いた解析は現在も続けられています。

Kavli IPMUは発足以来、天文、地下、加速器の3つからなる実験および観測の結果を理論物理学、数学でつなぎ合わせて宇宙の謎に迫ることを大方針としてかかげてきた中、これまで加速器実験を行う高エネルギー物理の専任研究者は在籍していませんでした。今回、2012年11月1日付でKavli IPMUに樋口岳雄(ひぐち・たけお)特任准教授が着任し、この分野を立ち上げました。

樋口特任准教授は、これまでKEKでBelle、Belle IIに深く関わってきました。今後Kavli IPMUの高エネルギー物理研究グループには数名の特任研究員が加わる予定で、樋口特任准教授のリーダーシップのもとB中間子の崩壊点を精密に測定するためのシリコン崩壊点検出器の組み立てとデータ取得システムの開発を担当し、素粒子標準模型を超える新しい物理の探索を行います。Kavli IPMUの実験室にはクラス1000のクリーンルーム、3次元計測器、自動ワイヤーボンダー、ワイヤーテスターなど、シリコン崩壊点検出器の開発、組み立てに必要な設備が整っており、すでに他のBelle II共同利用機関の研究者にも利用されています。これらの設備も活用しKavli IPMUはBelle、Belle II両実験の推進に貢献してゆく予定です。

今回の両実験への参加について樋口特任准教授は、「実験物理学・理論物理学・数学の融合を特長に宇宙の謎を解き明かそうとしているKavli IPMUが、高エネルギー加速器実験であるBelle IIおよびBelleの共同研究機関となったことを大変うれしく思います。これによりKavli IPMU内に新設された高エネルギー物理研究グループは現実的な活躍ができるようになりました。私たちのグループは Kavli IPMUに今までになかった新しい視点から宇宙の謎を解き明かします。Kavli IPMUで組み立てに取り組むシリコン崩壊点検出器は、『B中間子の崩壊点を 100 マイクロメートル以下の精度で決定する』という重要な役割を担っており、Belle II実験の遂行に欠かせない検出器のひとつです。Kavli IPMUの高エネルギー物理研究グループは、検出器製作技術の確立とBelle II実験のデータ解析という両面からのアプローチにより宇宙の謎に迫ります。」と語っています。

またBelleII実験代表者のリュブリャナ大学(スロベニア)の、Peter Krizen教授は、「樋口氏のグループをBelle IIの共同研究者として迎えられることを大変うれしく思います。彼のこの新しく魅力的な実験への貢献は、過去何年にも渡り非常に重要なものでした。そして、今後もKavli IPMUのグループを率いて、さらに大きく貢献をすることを確信しています。実際のところ、Kavli IPMUは、非常に精密な崩壊点検出器の設置方法の検討を通して、Belle IIにすでに大きく関与しています。Belle IIにとって、Kavli IPMUという名のある研究機関が共同研究機関リストに加わることは重要な利点です。共同研究の今後が非常に楽しみです。」とのコメントを寄せています。

【用語解説】
※KEKB加速器(ケックビーかそくき): 茨城県つくば市のKEKに設置されている『電子・陽電子衝突型加速器』。
地下約10mにあるトンネル内に約3kmの二つのリングを並列に設置し、それぞれに高エネルギー電子(80億電子ボルト)と陽電子(35億電子ボルト)を蓄積し、リングの交差点で衝突させることにより素粒子物理の実験を行っている。