ニュートリノの「CP対称性の破れ」、可能性さらに高まる

2017年8月4日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

本研究成果のポイント

・ T2K 実験グループでは、2016年夏の結果公表からデータ量を約2倍に増やして世界最高感度の測定を行った結果、ニュートリノにおいて CP 対称性が破れている可能性はさらに高まり、95%となった。
 

【概 要】
「ニュートリノと反ニュートリノの違い」について検証を進めるT2K実験※1(東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験、図1)国際共同研究グループ(以下、T2Kコラボレーション)は、2010年〜2016年に取得したデータに基づき、昨年、両者に違いがあり得ることを90%の信頼度で示していました。その後、新たに2016年10月〜2017年4月に取得したデータを加え、さらに新しい解析手法を用いることで、データ量を約2倍に増やして、ニュートリノと反ニュートリノの間でニュートリノ振動が起きる頻度の違いを世界最高感度で検証しました。その結果、ニュートリノと反ニュートリノの違いがある確率は95%に高まり、レプトンでの「CP対称性の破れ※2」が存在する可能性がより明瞭になりました。
「ニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動の確率が違う」ということが事実であれば、万物を構成する素粒子の仲間であるクォークでは破れている「CP 対称性」がニュートリノでも破れていることを意味するとともに、「宇宙の始まりであるビッグバンで物質と反物質が同数生成されたのに、現在の宇宙には反物質はほとんど存在していない」という宇宙の根源的な謎を解明するうえで大きなヒントとなります。
今回のT2K実験の結果は当初目標の約30%のデータ量のみに基づく中間結果ですが、「ニュートリノと反ニュートリノの違い」があり得ることを95%の確率で示すものです。J-PARCセンターとT2Kコラボレーションは今後、ニュートリノビームを作る陽子ビームの強度をさらに高め、目標のデータ量を当初目標の2.5倍(現在の約9倍)に引き上げることで、ニュートリノにおける「CP対称性の破れ」を3σ(=確率99.7%)の信頼度で検証することを目指します。


詳しくは東京大学宇宙線研究所のプレスリリースのページをご覧下さい。
リンクURL:http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/2017/08/04110000.html


T2K 実験には、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の研究者も複数参加しています。 今回の成果を発表するにあたり、データ解析で貢献している Mark Hartz (マーク・ハーツ) 特任助教は今回の成果について以下のように述べています。

「ニュートリノモードでのデータ量が2倍となったこと、そして解析手法の改善を図ったことにより、T2K実験では未解明のニュートリノにおけるCP対称性の破れについて、最も精密な測定結果を発表することとなりました。今回のデータはCP対称性の破れに関する興味深い手がかりを示すものです。決定的な測定のため、T2Kではニュートリノモードと反ニュートリノモードのデータを更に集めていく必要があります。T2Kの研究者の一人として、ニュートリノにおけるCP対称性の破れの探索とニュートリノ振動パラメーターの精密測定を行う長期計画が、これからも引き続き行えることを期待しています。」


※1 T2K実験
高エネルギー加速器研究機構 (KEK) と日本原子力研究開発機構が共同で運営する大強度陽子加速器施設 J-PARC で作り出したニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」で検出する、長基線ニュートリノ振動実験。J-PARC がある茨城県東海村と神岡町 (Tokai to Kamioka )の頭文字を取って「T2K 実験」と名付けられた。T2K 実験はニュートリノの研究において世界をリードしており、アメリカ・イギリス・イタリア・カナダ・スイス・スペイン・ドイツ・日本・フランス・ポーランド・ロシアの11ヶ国、61の研究機関から約500人の研究者が参加する国際共同実験となっている。日本からは 大阪市立大学・岡山大学・京都大学・高エネルギー加速器研究機構・神戸大学・首都大学東京・東京大学・東京大学宇宙線研究所・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)・東京工業大学・東京理科大学・宮城教育大学・横浜国立大学の総勢101名の研究者と学生が実験の中心メンバーとして参加している。

※2 CP 対称性の破れ
物質と反物質の間で素粒子反応の性質が異なること。宇宙が反物質ではなく物質で構成される(物質優勢宇宙)ための必要条件の一つであり、レプトンの CP 対称性の破れは非常に重要な鍵を握っている可能性がある。
 




関連リンク
T2K 国際共同実験グループ

J-PARC ニュートリノ実験施設のページ

スーパーカミオカンデのページ