初期宇宙の構造を調べるCOSMOS-Webb プログラム -ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測プログラムの一つに選出-

2021年4月20日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の John Silverman (ジョン・シルバーマン) 准教授をはじめ、Kavli IPMU の研究者を含む約50人の研究者からなる国際研究チームが提案していた COSMOS-Webb プログラムが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) で実施される観測プログラムの一つに選ばれました。

JWST は、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) の後継として米航空宇宙局 (NASA) が中心となり開発を進めてきた望遠鏡で、2021年10月31日に打ち上げが計画されています。そして約半年の試運転を経て後、2022年に科学観測の開始が予定されています。サイクル1と呼ばれる JWST 最初の年の観測に対しては、1000以上の観測提案が寄せられ、そのうち286件の観測プログラムが選ばれました。COSMOS-Webb (COSMOS-Webb: The Webb Cosmic Origins Survey) は、そのうちの一つです。米ロチェスター工科大学の Jeyhan Kartaltepe 氏と米テキサス大学オースティン校の Caitlin Casey 氏が中心研究者を務めプログラムを主導しています。

COSMOS-Webb では、与えられる208.6時間の観測時間を使って、ろくぶんぎ座領域付近にある COSMOS フィールドと名付けられた天域の観測を行います。近赤外線で50万個の銀河を調べるほか、中間赤外線で新たに3万2千個の銀河を調べる予定です。

本プログラムの共同研究者の一人である Kavli IPMU の John Silverman 准教授は、「COSMOS-Webb は、宇宙が出来て最初の数億年頃の銀河に対する、我々の理解に革新をもたらすと考えています。最初期の超大質量ブラックホールを持った銀河さえ目に出来るかもしれません」と述べています。研究チームは、COSMOS-Webb で得られたデータを迅速に公開する予定です。そのため、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ HSC (Hyper Suprime-Cam) や 超広視野多天体分光器 PFS (Prime Focus Spectrograph, ※2023年本格観測運用開始予定) を使って、COSMOSフィールドの光学観測に取り組む日本の研究者をはじめ、世界中の多くの研究者による他の研究の発展にも繋がる可能性があります。

この観測では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) の近赤外線カメラ NIRCam を用いて空の0.6平方度 (満月3つ分の広さ) を調べると同時に、中間赤外線装置 MIRI でより小さな領域の0.2平方度をマッピングする予定です (図1)。この観測で、研究者達は主に3つの目的の達成を望んでいます。

1つ目は、ビッグバン後40万年から10億年後の間に起きた宇宙の再電離の時代に焦点を当てたものです。宇宙は誕生してすぐの高温状態から、膨張するにつれ徐々に温度が下がっていきプラズマ状態のガスが結合して中性状態となり、宇宙の晴れ上がりが起きました。しかし、その後再びガスが電離されて宇宙全体がプラズマ状態になりました。これを宇宙再電離と呼びますが、宇宙最初の星や銀河が形成された際、これらの星や銀河から放射された光によって宇宙が再電離しました。この再電離は、おそらく一度に引き起こされたのではなく、小さな領域で局所的に起こっていったと考えられています。COSMOS-Webb では、この局所的な再電離バブルの規模を明らかにすることを目的としています。

2つ目は、中間赤外線装置 MIRI を用いて、宇宙初期に既に成熟していたと考えられる、大質量銀河を高赤方偏移の遠方の宇宙で探すことです。ハッブル宇宙望遠鏡は、こうした銀河の例を見つけており、宇宙がどのように形成されたのかという既存モデルに疑問を投げかけています。本プログラムでは、なぜ銀河がそこまで早く進化したのかを理解するため、高赤方偏移の遠くて昔の宇宙で、こうした事例をさらに見つけて詳細な研究を行おうとしています。

3つ目は、弱い重力レンズ効果と呼ばれる手法を利用してダークマターの地図を作成し、ダークマターが銀河の進化に与えた影響を調べようというものです。重力は私達が目で見ることの出来ないあらゆる物質に影響を与えるため、銀河の周りの僅かな光の歪みを利用して研究者達はダークマターの量を推定することができます。この3つ目の目標について、Kavli IPMU 客員上級科学研究員を兼ねる NASA ジェット推進研究所 (JPL) の Jason Rhodes 氏は、「COSMOS-Webb は、銀河の恒星と共にダークマターが、宇宙年齢を通じてどのように進化してきたのかに関する重要な洞察を我々に与えるでしょう。10年以上前に行われたハッブル宇宙望遠鏡によるCOSMOS フィールドの観測は、ダークマターが今我々の見ている宇宙の構造を形作る上での足場となっていることを示していました。COSMOS-Webb では、JWST のより大きな鏡を利用して、時代を更に遡り且つ高解像度でダークマターの地図を描き出すことができます。これにより、ダークマターが宇宙初期から現在にかけ、個々の銀河の進化に対してどのように影響したのかを調べることができます」と述べています。
 

COSMOS-Webb プログラム詳細及びサイクル1で採択された観測プログラムについては、JWST 運用組織である宇宙望遠鏡科学研究所 (STScI) Webサイトをご覧下さい。
COSMOS-Webb プログラムについて
COSMOS-Webbを含むサイクル1で採択された観測プログラムについて
 

(研究内容について)
John Silverman (ジョン・シルバーマン) [英語での対応]
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 准教授
E-mail: john.silverman_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください
 

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 真里奈 
E-mail:press_at_ipmu.jp 
TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください

 

関連リンク
NASA’s James Webb Space Telescope General Observer Scientific Programs Selected (NASA のプレスリリース, 英語) ※286件の観測プログラム選出に関する内容