Profile 03 Alessandro Sonnenfeld (アレッサンドロ・ソネンフェルド)


名前: Alessandro Sonnenfeld (アレッサンドロ・ソネンフェルド):天文学
出身地: イタリア共和国 トスカーナ州 ルッカ
職位: Kavli IPMU 特任研究員
おすすめの書籍: “Dialogue Concerning the Two Chief World Systems (邦訳:天文対話)” (著:Galileo Galilei)
「日常の道具という限られたもので宇宙について知る機会を与えてくれる内容であり、科学に関する優れた入門書です。」
日本で好きなこと: カラオケに行くこと。「1週間おきには行こうと心がけています。80年代のクラシックな曲が好きです。」
 

Kavli IPMU で現在行っている研究について教えてください。

私は基本的に2つのプロジェクトに所属しています。1つ目は超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) のデータの解析です。HSCでは、大規模な戦略枠観測プログラム (HSC-SSP) と呼ばれる1,400平方度の天域をカバーする大規模サーベイが行われています。このデータから、私は可能な限りたくさんの重力レンズを見つけようとしています。ご存知のように、重力レンズは稀な現象ですが、とてもシンプルなものです。光源となる背景の銀河の手前に、典型的な銀河など巨大な天体がある時に引き起こされます。

これらの銀河同士が一直線上に綺麗に並んでいて且つ手前の銀河が充分な質量を持っていれば、背景の天体からの光は曲げられ、同じ銀河が複数の像となってみえます。これらの画像を用いることで、前にある銀河の質量を調べることができます。例えば、画像間の分離の度合いが大きければ大きいほど、手前にある銀河はより重いといった具合です。
 

なぜこうしたことを調べるのが重要なのでしょう?

重力レンズは天文学で最も正確な観測の一つです。天文学の観測は、従来とても不確かなものとして知られていました。重力レンズを用いると、1%, 2%の精度での観測ができ、非常に誤差が小さい安定した結果が得られます。
 

どんな謎を明らかにしようとしているのでしょうか?

主な謎は、ダークマターはどれくらいの量あるのか?銀河を形作るものは何か?どのように銀河は成長して行くのか?です。我々の知る限り、銀河はより小さい銀河と合体していくことで成長します。しかし、どうやってそれが起きるかの詳細は明らかではありません。これらの疑問についてモデルを作ることは出来るものの、これまでのところ、この疑問を実験によって確かめることは出来ていません。重力レンズはそれを可能とする機会をもたらし、HSCはその疑問に答える優れた道具です。
 

Kavli IPMUで2つ目に取り組んでいる研究内容について教えてください。

もう一方の私の仕事は、Kavli IPMU に以前在職していて現在はカリフォルニア大学サンタクルーズ校にいるアレクシー・レオトハーネット氏をはじめとした方達と一緒にしている仕事です。私たちは、弱い重力レンズデータを解析する上でより統計的にロバストな手法を開発しようとしています。弱い重力レンズでは、レンズ効果を引き起こす手前の質量を持つ天体があっても、レンズによる歪みは小さいか弱く、背景の天体の複数画像を捉えることは出来ません。むしろ、背景の天体をたくさん足し合わせて統計的にしか測ることのできないほど小さな歪みとなっています。私達は、よく用いられている“スタッキング”の手法のように、幾つかの前提に頼ったものではなく、より統計的に進んだデータ解析の手法を開発しようとしています。

弱い重力レンズを見つけるには何千もの銀河や観測結果を総計することが必要です。私達は通常、全ての銀河が同じに見えるという仮定で観測結果を足し合わせ、精度良く且つ不確かさが小さくなるまで何度でも計測を繰り返します。私達がやろうとしていることは、このような”トリック”を使わず、その場にある全てのデータを上手く利用しながら弱い重力レンズを探すことです。
 

弱い重力レンズのデータからどんな疑問に取り組もうとしているのでしょう?

この場合に謎とされるのは、銀河のダークマターハローはどのように見えるのか?といったことです。ご存知かもしれませんが、ダークマターには質量がありますが、可視光では見ることができません。ですが、重力レンズ効果を使えば見ることができます。それが重力レンズの強みです。私達は、ダークマターハローの性質と実際に見ることのできる銀河の性質とを関連づけようとしています。ダークマターハローとは、銀河周辺のダークマター分布のことです (弱い重力レンズで調べられます) 。これまでの理解では、より重い銀河にはより重いダークマターハローが存在するとされていますが、私達の知らない別の相互関係があるかもしれません。例えば、同じ質量でありながら、外側に広がっている銀河ほど、ダークマターハローの質量が大きいかもしれません。こうしたことをきちんと調べるために、新しい統計的解析手法の発展が必要です。
 

Kavli IPMU での研究生活について教えて下さい。

私が一番楽しみにしていることは、沢山のビジターが頻繁にやってくることです。日本は地理的に、ヨーロッパやアメリカのような最先端科学が世界的に進められているような場所とは離れています。しかしIPMUでは、ビジターとして世界中からやって来る凄い人達と交流出来る機会が多くあります。
 

研究活動の背景を教えて下さい。

学部と修士の頃はイタリアのピサで物理を勉強していました。修士の頃に天文学と重力レンズに注目するようになりました。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で博士号を取得し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で少しポスドクをしてから、Kavli IPMUに着任しました。
 

科学に関心を持つようになったきっかけを教えて下さい。

子供の頃、太陽系の惑星の画像が載っているような天文学の本を見るのが楽しかったのを覚えています。専門家として天文学ができると知るまで、この楽しかった頃の気持ちがずっと私の心にあったのだと思います。私は良い先生にも恵まれました。例えば小学校の頃の先生ですが、科学に興味を持たせるのがとても上手でした。学校の初日に彼が言ったことを覚えていますが、「さあ、皆さん!5学年までに、私達は月に行けるでしょう!」というものでした。私は「うん、月に行こう!」と反応しましたが、結局月には行けませんでした。実現させるためには、もっと勉強しなければいけないのかもしれない、ということに気づいたのです。
 

これからの研究活動について教えて下さい。

HSCのデータを使った仕事をこれからもしていきたいです。とても初期の沢山のデータリリースの中から、私達は50個の新しい強い重力レンズを見つけました。背景に2つ銀河が存在していた特別なものでした。発見されるのを待つばかりの面白い天体が他にもあるかもしれません。それと、SuMIReプロジェクトの一部として、すばる望遠鏡に搭載される予定のすばる超広視野分光観測 Prime Focus Spectrograph (PFS) でも仕事を行なっていく予定です。
 

研究内容はどこで拝見できますか?

私のWebページから論文情報をご覧いただけます。http://member.ipmu.jp/alessandro.sonnenfeld/