天体素粒子物理学

天体素粒子物理学とは大別して、

  1. 天体現象を通じて地上実験では到達不可能な領域の素粒子物理学を研究する分野、
  2. ニュートリノなどの素粒子を用いて、従来の天文学では観測不可能な領域の天体物理を探る分野

のことをさす。したがって本研究分野は、暗黒物質検出実験、高エネルギー天体物理学、またニュートリノ物理学とも極めて関連が深い。

暗黒物質は宇宙の全物質の実に85%を占めることが観測的に明らかになっているが、その正体は未だ謎に包まれている。標準模型の素粒子では説明できない以上、最も自然な解釈は、標準模型を超える物理によって予言される未発見の素粒子からできているとすることである。有力候補としては超対称性模型から予言されるニュートラリーノ、ニュートリノ混合を通してのみ標準模型粒子と相互作用するステライル・ニュートリノ、また強い相互作用におけるCP問題を解決するために導入されるアクシオンなどが考えられて来た。カブリIPMUでは、これら全てを含んだあらゆる可能性についての研究を推し進めており、近い将来における暗黒物質粒子の発見というブレイクスルーの達成を目指している。

天体素粒子物理学と最も関連が深いのは、天体からの暗黒物質起源となる微弱な信号を捉えることを目的とする、「間接検出実験」である。例えば暗黒物質が、ニュートラリーノを含む、Weakly Interacting Massive Particle (WIMP)から出来ている場合、それらWIMPが対消滅を起こし、ガンマ線、荷電粒子、ニュートリノといった高エネルギー検出器で観測可能な信号を出す可能性が指摘されている。カブリIPMUでは、

  • 素粒子模型からスタートし観測データに新たな解釈や将来観測への展望を与える研究、
  • 宇宙の構造形成の知識を用いて、全ての候補天体の中からもっとも有力となる天体を選出しそこからの信号を予言する研究、また
  • 実際のデータ解析を用いて暗黒物質の相互作用の強さを制限する研究、

というあらゆる角度からのアプローチを試みている。

天体からの暗黒物質起源の信号をとらえる場合、通常の天体起源のものを適切に評価し、差し引かなくてはならない。このため高エネルギー宇宙物理学との関連が深い。逆に暗黒物質の興味で始まった新しい解析手法が、高エネルギー宇宙物理学の分野に適用され新たな知見を得ることに貢献することも珍しくない。カブリIPMUの研究者たちのアイディアも実際に世界中の研究者に採用され、さらなる地平線を切り開き続けている。

未知の天体現象を探るとき、ニュートリノなど光以外の手法を用いることが極めて重要となることがわかっている。例えば超新星1987Aからのニュートリノ検出により超新星爆発のメカニズムに初めてメスを入れることが可能となった。最近では重力波の直接観測により、ブラックホールや中性子星の物理を詳細に研究することが可能となりつつある。また高エネルギー宇宙線や、近年発見されたTeVからPeV領域の高エネルギーニュートリノも、全く新しい宇宙物理の重要な手法となることが期待されている。これらもすべてカブリIPMUの重要な研究テーマであり、上述の暗黒物質の間接探査との極めて深い関連性も併せて、総合的、多角的アプローチで取り組んでいるところである。 (Last update: 2018/05/07)

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