世界初!! ガンマ線バースト残光から超高エネルギーガンマ線の検出に成功

2019年11月21日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の高橋忠幸 (たかはし ただゆき) 主任研究者や立教大学理学部の内山泰伸教授が日本代表を務める国際共同実験プロジェクトH.E.S.S.チームが、10年以上の長きにわたる挑戦の末、宇宙最大の爆発現象である「ガンマ線バースト」から世界で初めて超高エネルギーガンマ線放射の検出に成功したことを発表しました。今回の発見に至るまでは、超高エネルギーガンマ線は爆発直後の数十秒間のみ観測可能だと思われていました。しかし、H.E.S.S.チームの検出によって、ガンマ線バースト内には非常に高いエネルギーを持つ粒子が存在していると言うだけでなく、爆発後10時間以上経過した後もそれだけの超高エネルギー粒子を生成し続けていることが示されました。今回の発見は、ガンマ線バーストの新たな姿を明らかにしており、今後のガンマ線バーストの観測戦略に大きなインパクトを与える重要な結果となりました。

本研究成果は、2019年11月21日発行の英国科学雑誌「Nature」 に掲載されました。

 

2.発表内容
「ガンマ線バースト」は宇宙最大の爆発現象であり、爆発の直後から長くて数十秒、強烈に明るく輝きます。このバーストの瞬間に放たれる光は、可視光の数千から数百万倍のエネルギーを持つガンマ線が主な成分です。その後は急激に暗くなり弱く光る「残光」が可視光やX線の追観測からは確認されていました。ガンマ線バーストは天球上に予兆なく突然発生するため、天球の広範囲を一度に監視可能な宇宙空間の天文衛星によって観測されます。ただし、非常に高いエネルギーのガンマ線(少なくとも可視光の1000億倍のエネルギー以上の光:100ギガ電子ボルト以上に対応)になると、装置の大きさの限られる衛星では観測は難しく、特殊な巨大地上望遠鏡が必要となります。ガンマ線バーストは宇宙最大の爆発現象であるものの、どこまで高いエネルギーの光を生成しているか不明でした。
 

2018年7月20日、フェルミ衛星ガンマ線バーストモニターとガンマ線観測衛星スウィフトは、うお座方向にガンマ線バースト「GRB 180720B」(注1) が発生したことをオンラインシステムにて即座に世界に発信しました。世界中の望遠鏡が次々と観測を始める中、H.E.S.S.望遠鏡群 (注2) にてそのガンマ線バーストが観測可能となったのは、位置の関係から発生後約10時間を経過した後でした。地上観測は天候や昼夜の制限もあり、突然発生するガンマ線バーストに対して巨大望遠鏡による即応観測を実施するのは容易なことではありません。それにも関わらずH.E.S.S.チームは望遠鏡を天体に向け観測に挑みました。その結果、望遠鏡運用開始から10年以上を経て初めて、ガンマ線バーストの「残光」の中に100ギガ電子ボルトから440ギガ電子ボルトに対応する超高エネルギーガンマ線の検出に成功しました。

 

今回の超高エネルギーガンマ線の検出は、ガンマ線バースト内には非常に高いエネルギーを持つ粒子が存在していると言うだけでなく、爆発後10時間以上経過した後もそれだけの超高エネルギー粒子を生成し続けていることを示しており驚くべき発見でした。今回の発見に至るまでは、超高エネルギーガンマ線は爆発直後の数十秒間のみ観測可能だと思われていたからです。

GRB 180720Bはガンマ線バーストの中でも明るい天体で、バーストは約50秒間続きました。この現象は大質量星が最期に起こす爆発が起因していると考えられます。星の中心核が最期に重力崩壊を起こし回転するブラックホールを形成します。残った周辺のガスがその中心ブラックホールに落ち込み円盤を形成、同時に円盤の垂直方向にはほぼ光速の速さで噴出するプラズマ流「相対論的ジェット」が生まれ、そこからガンマ線の閃光が放たれたと解釈されます。
 

今回の結果からガンマ線バーストがどのように光るのかその機構を記述する理論モデルを絞り込むことができましたが、十分時間が経過した後でも超高エネルギーガンマ線を発生する現象を説明することは単純ではなく、今後の研究課題が噴出する結果とも言えます。

今後、ガンマ線バーストからの超高エネルギーガンマ線放射の検出例が増えることによって、宇宙初期のブラックホール生成の様子、さらには宇宙の進化の解明に役立つことが期待されています。

本研究成果に関する詳細は、立教大学のプレスリリース記事も併せてご覧ください。


3. 発表雑誌
雑誌名: Nature
論文タイトル:A new very-high-energy component deep in the Gamma-ray Burst afterglow.
著者:H.E.S.S. Collaboration et al.  (責任著者: Edna Ruiz Velasco, Quentin Piel, Robert Daniel Parsons, Elisabetta Bissaldi, Clemens Hoischen, Andrew Taylor, Felix Aharonian, Dmitry Khangulyan)

論文URL (アブストラクト):https://www.nature.com/articles/s41586-019-1743-9 (2019年11月21日掲載)
 


4. 問い合わせ先
(報道対応)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森 真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp TEL: 04-7136-5977
*_at_を@に変更してください


5. 用語解説
注1) GRB 180720B
2018年7月20日14時21分39秒(世界標準時)に発生し、「初期放射」と呼ばれる明るく輝くバーストが約50秒間継続しました。また、可視光による観測から、約60億光年先で発生したと見積もられています。ガンマ線バーストは、その頭文字(Gamma-Ray Burst: GRB)と発生年月日そして末尾にはその日の発見順にAからアルファベットが与えられます。
 

注2) H.E.S.S. 望遠鏡群
H.E.S.S.望遠鏡群は、1912年に宇宙線を発見し1936年ノーベル賞を受賞したVictor Franz Hess (ヴィクトール・フランツ・ヘス) にちなんで名付けられ、アフリカ南西部のナミビアの約1800mの高地に設置されたチェレンコフ望遠鏡群です。宇宙から飛来した超高エネルギーガンマ線は大気に突入すると、大気中の分子と反応して荷電粒子(電子-陽電子対)を生成し、その後も大気中の分子と反応を繰り返して荷電粒子が雪崩式に生まれます。この荷電粒子はエネルギーが十分高いために「光の衝撃波」とも呼ばれる「チェレンコフ光」を放射します。チェレンコフ望遠鏡とは、そのチェレンコフ光を捉えて「間接的に」超高エネルギーガンマ線を観測する装置です。
写真中央に位置するのが今回ガンマ線バーストからの信号を検出した主鏡口径28mを有する世界最大のチェレンコフ望遠鏡で、その周りには主鏡口径12mのチェレンコフ望遠鏡が4台設置されています。2002年に運用を開始、現在ヨーロッパ諸国や日本を含んだ13カ国から260人以上の科学者が参加する国際共同研究プロジェクトであり、日本からは東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構や立教大学が参画しています。High Energy Stereoscopic System(H.E.S.S.): https://www.mpi-hd.mpg.de/hfm/HESS/
 

関連記事
超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成 〜宇宙の標準光源「かに星雲」のサイズを超高エネルギーガンマ線で測定〜 (2019年11月15日)
 

関連リンク
2019年11月21日 
世界初!! ガンマ線バースト残光から超高エネルギーガンマ線の検出に成功 (立教大学のプレスリリース)

高橋忠幸研究室ウェブページ

H.E.S.S. Collaborationのページ