ついに観測された理論上の超新星 ―明らかになった恒星の運命の境⽬―

2021年6月29日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)


1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一 (のもと けんいち) 上級科学研究員はじめ京都大学や国立天文台の研究者も参加する、カリフォルニア大学サンタバーバラ校博士課程学生の平松大地氏を中心とした国際研究チームは、日本のアマチュア天文家によって発見された超新星2018zd の詳細な観測を行い、この超新星が電子捕獲型超新星であると結論付けました。恒星の一生の最後、質量の小さな恒星は白色矮星となり、質量の大きな恒星は超新星として終焉の時を迎えます。しかし、この境目の質量を持つ恒星の運命はよくわかっていませんでした。この境目の恒星は「電子捕獲型超新星」と呼ばれる特殊な超新星として爆発することが約40年前に理論的に予測されていました。さらに、「明月記」に記録の残る1054年の超新星が電子捕獲型超新星であった可能性も指摘されていましたが、電子捕獲型超新星とはっきり分かる超新星はこれまで発見されていませんでした。本研究チームの成果により、これまでよくわかっていなかった白色矮星と超新星の運命の境目が明らかになりました。研究チームに参加している、国立天文台の冨永望 (とみなが のぞむ) 氏、ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所の Melina Bersten (メリーナ・バーステン) 氏と Gastón Folatelli (ガストン・フォラテリ) 氏は現在でも Kavli IPMU の連携研究員でもあるほか、京都大学の前田啓一 (まえだ けいいち) 氏と国立天文台の守屋尭 (もりや たかし) 氏もKavli IPMU に過去所属していました。

本成果は、英国の国際学術誌「Nature Astronomy」のオンライン版にロンドン時間の2021年6月28日付で掲載されました。
 

2. 発表内容
【背景】
恒星は内部で核反応を起こすことで長時間自らの重さを支え続けます。質量の小さい恒星は、やがて核反応を続けなくても自らの重さを支えられる白色矮星となって終焉の時を迎えます。質量の大きい恒星は、核反応により中心部で鉄ができると自らの重さを支えきれなくなり、潰れた後に超新星として爆発することが知られています。この境目となる質量は太陽の8倍程度であると考えられています。しかし、この境目付近の質量を持つ恒星がどのような運命を辿るのかは長い間謎に包まれていました。

約40年前、野本憲一 Kavli IPMU 上級科学研究員は、茨城大学や東京大学教養学部に所属していた当時に共同研究者達と、この境界付近の質量を持つ恒星は、「電子捕獲型超新星」と呼ばれる特殊な超新星を起こすという理論的な予測を行いました。境界付近の質量の恒星は核反応進行に伴う鉄コアの生成に至らずに、酸素・マグネシウム・ネオンからなる中心コアを形成し、電子の力により自らの重さを支えるようになります。やがて電子がマグネシウムやネオンに捕獲される電子捕獲反応が起こり、恒星を支える電子が失われることで潰れてしまうと予測されました (図2)。その結果、超新星として爆発すると考えたのです。この予測は、野本憲一 Kavli IPMU 上級科学研究員自身とその共同研究者による最新の理論データを用いた研究によっても、再確認されていました (2020年3月30日発表「電子を食べるネオンが引き起こす星の崩壊 −原子核物理とシミュレーションが解き明かす電子捕獲型超新星の重力崩壊過程−」の Kavli IPMU プレスリリース記事を参照)

電子捕獲型超新星の最有力候補として野本憲一氏等が提唱していたのは、藤原定家が明月記に記録を残した1054年の超新星でした。記録に残る超新星の位置には現在「かに星雲」が存在します。このため、かに星雲は1054年の超新星の結果できた超新星残骸だと考えられています。かに星雲の質量やエネルギー、そこに存在する元素の量は電子捕獲型超新星の理論から予測される特徴とよく合うことから、1054年の超新星は電子捕獲型超新星であったのではないかと指摘されてきました。しかし、現在多くの超新星探査が世界中の望遠鏡で行われているのにも関わらず、電子捕獲型超新星の特徴を併せ持つ超新星は観測されておらず、本当に電子捕獲型超新星が存在するのかははっきりしていませんでした。

【研究手法・成果】
2018年3月2日、山形県のアマチュア超新星ハンターである板垣公一氏により、きりん座の方向で爆発直後の超新星2018zd が発見されました。また、千葉県のアマチュア超新星ハンターの野口敏英氏の観測により、爆発直後の詳細な明るさの変化が記録されました。これを受け、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の博士課程学生である平松大地氏を中心とする観測チームが結成され、世界中の地上望遠鏡と宇宙望遠鏡でこの超新星の詳細な観測が行われました。以上の観測の結果、この超新星は通常とは異なる特徴を多く持っていることが明らかになりました。観測から推定された超新星に含まれる元素の量や爆発エネルギー、星の周囲の環境は、電子捕獲型超新星の理論予測と一致するものでした。さらに、偶然にもハッブル宇宙望遠鏡が超新星の現れる前に超新星の場所を観測しており、超新星となった恒星の爆発前の姿を捕らえていたことも判明しました。爆発前のデータから、爆発した恒星は太陽の約8倍の質量を持っていたことも明らかになりました。この結果、超新星2018zd は電子捕獲型超新星が持つと予測された全ての特徴を持った初めての超新星であることが明らかになりました。ついに電子捕獲型超新星が発見されたのです。

白色矮星と超新星の境目は、恒星の理論、核反応の理論、超新星爆発の理論など、様々な理論が交差する部分です。そのため理論予測の不定性も大きく、これまで本当に電子捕獲型超新星が存在しているのかもはっきりしていませんでした。どの質量の恒星が白色矮星となり、どの質量の恒星が超新星となるのか。これは宇宙の元素の起源などを知る上で必要不可欠な情報です。また、超新星は中性子星やブラックホールを残すため、その起源を知るためにもこの境目で何が起こるのかを知ることが必要になります。今回の研究で電子捕獲型超新星が存在することが観測的に示されたことで、恒星進化の全体像の理解に重要なピースが埋まることとなり、これは様々な元素や中性子星の起源に迫る上で大きな一歩になると考えられます。
 

【波及効果、今後の予定】
電子捕獲型超新星が初めて捕らえられ、その存在が確かめられました。しかし、電子捕獲型超新星がどのくらいの頻度で発生しているのかはまだはっきりとわかっていません。電子捕獲型超新星の発生頻度は、白色矮星となる恒星と超新星となる恒星の境目をより正確に決めるために必要な情報です。また、電子捕獲型超新星の宇宙の元素合成への寄与を知る上でも重要となります。今回電子捕獲型超新星が発見され、その観測的特徴がはっきりしたことにより、類似の超新星の発見が容易となりました。今回の発見をきっかけに、今後多くの電子捕獲型超新星が同定され、その頻度といった詳細な情報が得られるようになると考えられます。

また、今回の研究では、爆発直後に超新星2018zd が発見されたことがその正体を明らかにする上で重要な役割を果たしました。これはアマチュア超新星ハンターの板垣氏と野口氏による爆発直後の発見と観測によって初めて可能となりました。世界中の大望遠鏡で超新星探しが行われている現代においても、アマチュア天文家による発見が天文学に大きなインパクトを与えていることが示された重要な結果となりました。


Kavli IPMU の野本憲一上級科学研究員は、自身らによる約40年前の理論予測が今回確かめられたことに対して、下記のように述べています。
「私と共同研究者で40年前に存在を予言し、かに星雲との関連を提案していた電子捕獲型超新星がついに発見され、非常に嬉しく思っています。観測データを得るため、関係者の方々が多大な努力を払われたこと、私からも敬意と感謝を申し上げたいと思います。今回の成果は、観測と理論の組み合わせによって得られた大変素晴らしい成果です。」

本研究成果については、京都大学のプレスリリースのページ と 国立天文台のプレスリリースのページ も併せてご覧ください。
 

3. 発表雑誌
雑誌名:Nature Astronomy
論文タイトル:The electron-capture origin of supernova 2018zd

著者:Daichi Hiramatsu (1,2), D. Andrew Howell (1,2), Schuyler D. Van Dyk (3), Jared A. Goldberg (2), Keiichi Maeda (4,5), Takashi J. Moriya (6,7), Nozomu Tominaga (8,5,6), Ken’ichi Nomoto (5), Griffin Hosseinzadeh (9), Iair Arcavi (10,11), Curtis McCully (1,2), Jamison Burke (1,2), K. Azalee Bostroem (12), Stefano Valenti (12), Yize Dong (12), Peter J. Brown (13), Jennifer E. Andrews (14), Christopher Bilinski (14), G. Grant Williams (14,15), Paul S. Smith (14), Nathan Smith (14), David J. Sand (14), Gagandeep S. Anand (16,17), Chengyuan Xu (18), Alexei V. Filippenko (19,20), Melina C. Bersten (21,22,5), Gastón Folatelli (21,22,5), Patrick L. Kelly (23), Toshihide Noguchi (24) and Koichi Itagaki (25)

著者所属:
1. Las Cumbres Observatory, Goleta, CA, USA. 
2. Department of Physics, University of California, Santa Barbara, CA, USA. 
3. Caltech/Spitzer Science Center, Caltech/IPAC, Pasadena, CA, USA. 
4. Department of Astronomy, Kyoto University, Kyoto, Japan. 
5. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Japan. 
6. National Astronomical Observatory of Japan, National Institutes of Natural Sciences, Mitaka, Japan. 
7. School of Physics and Astronomy, Faculty of Science, Monash University, Clayton, Victoria, Australia. 
8. Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, Hyogo, Japan. 
9. Center for Astrophysics ∣ Harvard & Smithsonian, Cambridge, MA, USA. 
10. The School of Physics and Astronomy, Tel Aviv University, Tel Aviv, Israel. 
11. CIFAR Azrieli Global Scholars program, CIFAR, Toronto, Ontario, Canada. 
12. Department of Physics, University of California, Davis, CA, USA. 
13. Mitchell Institute for Fundamental Physics and Astronomy, Texas A&M University, College Station, TX, USA. 
14. Steward Observatory, University of Arizona, Tucson, AZ, USA. 
15. MMT Observatory, Tucson, AZ, USA. 
16. Infrared Processing and Analysis Center, California Institute of Technology, Pasadena, CA, USA. 
17. Institute for Astronomy, University of Hawai‘i, Honolulu, HI, USA. 
18. Media Arts and Technology, University of California, Santa Barbara, CA, USA. 
19. Department of Astronomy, University of California, Berkeley, CA, USA. 
20. Miller Institute for Basic Research in Science, University of California, Berkeley, CA, USA. 
21. Instituto de Astrofísica de La Plata (IALP), CONICET, Argentina. 
22. Facultad de Ciencias Astronómicas y Geofísicas, Universidad Nacional de La Plata, La Plata, Argentina. 
23. School of Physics and Astronomy, University of Minnesota, Minneapolis, MN, USA. 
24. Noguchi Astronomical Observatory, Katori, Japan. 
25. Itagaki Astronomical Observatory, Yamagata, Japan.

DOI:10.1038/s41550-021-01384-2 (2021年6月28日掲載)
論文のアブストラクト(Nature Astronomy のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 

4. 問い合せ先
(研究内容について)
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
TEL: 04-7136-5977
E-mail:press_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください
 

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関連リンク
ついに観測された理論上の超新星 -明らかになった恒星の終焉の境目- (京都大学の記事)

ついに発見された理論上の超新星—明らかになった恒星進化の分岐点— (国立天文台の記事)

ついに発見された理論上の超新星 -明らかになった恒星進化の分岐点- (国立天文台科学研究部の記事)