急激に超高輝度となる天体の発生の瞬間を初めてとらえた

2022年7月13日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
京都大学大学院理学研究科
東京大学大学院理学系研究科
国立天文台

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)特任研究員(研究当時、現:国立天文台 特任研究員)の姜継安(じゃん じあん)をはじめとする国際研究チームは、「MUltiband Subaru Survey for Early-phase Supernovae」(MUSSES)(注1)プロジェクトの観測から、超高輝度超新星と同等の明るさを持ち、より急速に増光する天体をその発生直後に発見しました。
この天体はあまりにも急激に明るくなるため、その初期の急増光をとらえることは非常に困難でした。今回、ハワイにある8.2mすばる望遠鏡に搭載されたHSCを用いることによりMUSSES2020Jを発見し、短時間で非常に明るくなる天体をFBUT 天体と呼ぶことを示唆しました。
FBUT天体の起源としては、大質量星ブラックホールの潮汐力により恒星が破壊される現象や脈動型電子対生成超新星の可能性などが考えられます。
このような広視野の時間変化を含む測定は、種々の突発天体の形成・進化の研究など新たな手段を提供することになると期待されます。
本研究成果は、アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ誌(The Astrophysical Journal Letters)に7月12日付けで掲載されました。
 

2. 発表内容
【背景】
宇宙は短時間で変化の起きる高エネルギーの現象(突発天体)で満ちています。例えば、質量の大きな星のほとんどはその生涯の最期に壮大な爆発である超新星爆発を起こします。このような突発天体の起源を理解するために、過去数十年にわたり、天体の時間変化を調べる探索が広く行われてきました。これにより多くの突発天体が発見されたことで、これまで知られていなかった全く新しいタイプの突発天体が数多く存在することが、近年明らかになってきました。
その代表例として、非常に明るくかつ短時間でその明るさを変える突発天体があり、今回、このような特異な突発天体を Fast Blue Ultraluminous Transient (FBUT) (注2)と呼ぶことが示唆されました。
突発天体の正体に迫るうえでは発生直後の情報が鍵となりますが、FBUT天体はあまりにも急激に明るくなるため、その初期の急増光をとらえることは非常に困難とされてきました。

【研究手法・成果】
Kavli IPMUの姜継安特任研究員(研究当時)が率いる国際的な突発天体サーベイプロジェクト「MUltiband Subaru Survey for Early-phase Supernovae」(MUSSES)は、世界最強の探索装置、8.2mすばる望遠鏡に搭載されたハイパー・シュプリーム・カムHSC (Hyper Suprime-Cam)を用いてさまざまな突発天体の発生直後をとらえることを目的としています。
2020年12月のMUSSESにおける連続観測では、20個の急速に増光する突発天体が発見されました。そのうちの1つMUSSES2020J(AT 2020afay)は赤方偏移1.063という遠方で発生したFBUT天体であることが判明し、研究チームはその振る舞いに着目しました。
姜継安特任研究員(研究当時)は次のように説明しています。「MUSSES2020J は、2020年12月11日にまだ増光する前の段階で発見され、我々の観測中に急速に明るさを増していきました。さらに驚くべきことに、後の追跡観測によりこの天体が非常に大きな赤方偏移を持ち通常の超新星の約50倍の明るさであったことが明らかになりました。これらの特徴は、2018年に発見された特異な超新星であるAT 2018cowと非常に良く似ています。私たちは、このような特異な突発天体を Fast Blue Ultraluminous Transient (FBUT)(注2)と呼ぶことを示唆しました。
このような天体はまだごくわずかしか発見できていません。それは、急速に増光する特徴のためその発生直後の状態は観測はとても困難であったためです。今回、短い時間間隔での観測とHSCの優れた性能により、この注目すべき現象を初めてとらえることができたのです。初期の光度曲線の情報は、この突発天体の起源を理解する上で、ユニークな情報をもたらすはずです。」
また、この希少な観測データにより、MUSSES2020Jや他のFBUT天体の起源の研究が加速しています。研究グループの京都大学大学院理学研究科博士課程の宇野孔起(うの こうき)大学院生、同研究科の前田啓一(まえだ けいいち)准教授、国立天文台の守屋尭(もりや たかし)助教 、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(以下、Kavli IPMU)の野本憲一(のもと けんいち)客員上級科学研究員らは理論モデルの検討をさらに進めており、いくつかの可能性(いずれもブラックホールや強磁場中性子星のいずれかに関係する現象)にまで絞り込んでいます。
前田准教授はその進展について、以下のように説明しています。「FBUT天体の起源として非常に活動的なコンパクト天体が潜んでいることはほぼ疑いようがなく、これがFBUT天体が通常の超新星と非常に異なる理由であると考えられます。可能性としては、大質量星ブラックホールの潮汐力により恒星が破壊される現象や、大質量星の崩壊に伴いブラックホールや強磁場中性子星が形成される現象などが考えられます。今回初めて得られたFBUT天体の爆発直後の観測データにより、主成分である秒速3万キロメートル程度の膨張物質に加え、秒速10万キロメートルにも達する超高速成分も存在することが示唆されました。これは、謎に包まれたFBUT天体の正体解明の鍵になる情報であると考えられます。このような新たにもたらされた条件をもとに、現在さらに各モデルの精査を行っています。」
また、研究グループの野本Kavli IPMU客員上級科学研究員は、可能性の一つである脈動型電子対生成超新星「pulsational pair-instability supernova(PPISN)」に着目しており以下のように説明しています。「MUSSES2020Jは、AT 2018cowと似たような光度曲線を示しています。AT 2018cow の光度曲線をよく再現する有力なモデルのひとつは、PPISNの噴出物と周囲星物質の相互作用です。PPISNは、非常に重い星が爆発してブラックホールを形成し、外層をジェットのような形で放出するものです。周辺物質の量の違いによりMUSSES2020Jの光度曲線を説明できる可能性があります」
姜継安特任研究員(研究当時)の研究グループは、今後も引き続き、すばる望遠鏡をはじめとした世界中の望遠鏡を用いて突発天体探査を行い、この謎に満ちた新しいタイプの突発天体の起源を解明していく予定です。
Kavli IPMU客員上級科学研究員で東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターの土居守(どい まもる)教授は以下のように説明しています。「大変強力なHSCのおかげで、我々は大変希で不思議な発光現象を捉えることができました。今回の現象はもともと観測の主目的ではなく、たまたま捉えたもので、詳細な観測ができせんでした。大爆発し損ねた恒星の終末かもしれませんし、ブラックホールに関係した現象かもしれません。今回、このような不思議な現象が見つかることがわかったおかげで、次回体制を整えて正体を解明できるのではと期待しています。」

【波及効果、今後の予定】

FBUT天体は紫外・青色光での輝度が非常に高いことから、今後行われる紫外域にまで感度を持つ広視野光学探査の有望なターゲットとなることが期待されます。今後数年のうちに、2.5m広視野光学サーベイ望遠鏡(WFST)、Vera C. Rubin LSSTのような新世代光学サーベイ施設が科学観測を開始します。高感度Uバンドサーベイにより、広い赤方偏移領域にわたって数十個のFBUT天体が発見されることが期待されます。新しいタイプの突発天体であるFBUT天体の起源が明らかにされるばかりではなく、このような広視野の時間変化を含む測定は、種々の突発天体の形成・進化の研究など新たな手段を提供すると考えられます。

本研究は、
「特別研究員奨励費(JP18J12714)」
「研究活動スタート支援(JP19K23456)」
「若手研究(JP22K14069 )」
「新学術領域研究(研究領域提案型)(JP16H01087、JP18H04342、JP20H04737)」
「基盤研究(S)(JP16H06341、JP18H05223)」
「基盤研究(A)(JP15H02082、JP19H00694、JP20H00158、JP20H00174、JP20H00179、JP21H04499)」
「基盤研究(C)(JP16K05287、JP17K05382、JP20K04024)」
の支援により実施されました。

3.用語解説
(注1)「MUltiband Subaru Survey for Early-phase Supernovae」(MUSSES)
2014 年に提案されたMUSSES プロジェクトで、Ia型超新星(SNe Ia)の爆発機構を、爆発直後の多バンド測光情報を用いて解明することを主要な目標としています。MUSSESプロジェクトは、すばる望遠鏡に搭載されたHSCによる多バンドサーベイと、発見後に様々な望遠鏡を用いて詳細な撮像・分光を継続する追観測の2つのパートから構成されています。
(注2)FBUT(fast blue ultra-luminous transient)
超高輝度超新星に匹敵するピーク光度を持ちながら、光度曲線の立ち上がりが非常に速い突発天体です。FBUT天体の物理的なメカニズムとして、ブラックホールの近くで星が壊されてしまう潮汐破壊現象、超新星で放出された物質と周辺物質の相互作用などが考えられています。
 

4. 発表雑誌
雑誌名: アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ (The Astrophysical Journal Letters)
論文タイトル:MUSSES2020J: The Earliest Discovery of a Fast Blue Ultraluminous Transient at Redshift 1.063
著者: 
Ji-an Jiang (1, 2), Naoki Yasuda (1), Keiichi Maeda (3), Nozomu Tominaga (2, 4, 1、20), Mamoru Doi (5, 6, 1), Zeljko Ivezić (7), Peter Yoachim (7), Kohki Uno (3), Takashi J. Moriya (2, 8), Brajesh Kumar (9), Yen-Chen Pan (10), Masayuki Tanaka (2), Masaomi Tanaka (11, 1), Ken’ichi Nomoto (1), Saurabh W. Jha (12), Pilar Ruiz-Lapuente (13, 14), David Jones (15, 16), Toshikazu Shigeyama (17) Nao Suzuki (1, 18), Mitsuru Kokubo (19), Hisanori Furusawa (2), Satoshi Miyazaki (2, 20), Andrew J. Connolly (7), D. K. Sahu (21), and G. C. Anupama (21)
著者所属: 
1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
2 National Astronomical Observatory of Japan, National Institutes of Natural Sciences, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
3 Department of Astronomy, Kyoto University, Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan
4 Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, 8-9-1 Okamoto, Kobe, Hyogo 658-8501, Japan
5 Institute of Astronomy, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-0015, Japan
6 Research Center for the Early Universe, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan
7 Department of Astronomy, University of Washington, Box 351580, Seattle, Washington 98195-1580, USA
8 School of Physics and Astronomy, Faculty of Science, Monash University, Clayton, VIC 3800, Australia
9 Aryabhatta Research Institute of Observational Sciences, Manora Peak, Nainital, 263 001 India
10 Graduate Institute of Astronomy, National Central University, 300 Jhongda Road, Zhongli, Taoyuan, 32001, Taiwan
11 Astronomical Institute, Tohoku University, Aoba, Sendai 980-8578, Japan
12 Department of Physics and Astronomy, Rutgers, The State University of New Jersey, 136 Frelinghuysen Road, Piscataway, New Jersey 08854, USA
13 Instituto de Física Fundamental, Consejo Superior de Investigaciones Científicas, Calle de Serrano 121, E-28006 Madrid, Spain
14 Institut de Cieíncies del Cosmos (UB-IEEC), Calle de Martí i Franquès 1, E-08028 Barcelona, Spain
15 Instituto de Astrofísica de Canarias, E-38205 La Laguna, Spain
16 Departamento de Astrofísica, Universidad de La Laguna, E-38206 La Laguna, Spain
17 RESCEU, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-0015, Japan
18 Lawrence Berkeley National Lab, Berkeley, CA 94720, USA
19 Department of Astrophysical Sciences, Princeton University, Princeton, New Jersey 08544,USA
20 SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
21 Indian Institute of Astrophysics, II Block Koramangala, Bangalore 560034, India…

DOI: 10.48550/arXiv.2205.14889(2022年7月12日発行)
論文アブストラクト(アストロフィジカル・ジャーナル・レターズのページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)

 


5. 問い合わせ先
<研究内容について>*_at_を@に変更してください
(研究連絡先)
野本憲一(のもと けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 客員上級科学研究員/東京大学 名誉教授
E-mail: nomoto _at_ astron.s.u-tokyo.ac.jp
TEL:04-7136-5940

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 千葉 光史
E-mail:press_at_ipmu.jp
TEL: 04-7136-5977 / 080-4056-2930



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