急激に明るくなり超高輝度で輝く新タイプの超新星の爆発メカニズム

2022年1月18日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 


1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の野本憲一 (のもと けんいち) 上級科学研究員を含む国際共同研究チームは、従来の超新星と大きく異なり、急激に明るくなり超高輝度で輝く新しいタイプの超新星の爆発メカニズムを探る研究を行いました。研究グループは、2つの超新星 AT 2018cow と SN 2018gep を対象に爆発の輝き方のモデル計算を行い、観測データとの比較から、どのような星がどのような進化と爆発をした結果、このような新しいタイプの超新星となるかを突き止めました。本研究成果は、発行する天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル (Astrophysical Journal) オンライン版に2020年11月3日と2021年7月8日に掲載された2編の論文にわたって報告されました。

 

2. 発表内容
2018年、AT2018cow (愛称 COW) と SN2018gep (愛称 GEP) という非常に明るく輝く超新星が夜空に現れました (図1)。この2つの超新星は通常の超新星よりもピーク時の明るさが10倍から100倍と超高輝度超新星に匹敵する明るさになる上に、通常の超新星と比較して明るくなるまでの時間が大変短く、明るくなってからの持続時間も短い、 FBOT (Fast Blue Optical Transients) と呼ばれるタイプの超新星です(図2)。しかし、FBOT の超新星がなぜこのような挙動を示すのか、またこの挙動がどのような星の進化・爆発によるものなのかはこれまで謎とされてきました。

今回、Kavli IPMU の野本憲一上級科学研究員と Shing-Chi Leung (シンチー レオン) 特任研究員 (現:カリフォルニア工科大学研究員) は、2つの国際研究チームを組織して、AT2018cow と SN2018gep それぞれの爆発メカニズムについて研究を行いました。観測データの分析によれば、AT2018cow は FBOT に分類される超新星の中では最も明るい光度のピークを持ち、明るくなるまでの光度上昇の期間も約1日と最も短いことが分かりました。一方、SN2018gep は AT2018cow に比べてやや暗く、最も明るくなるまでの光度上昇の期間が約3日と長いことが分かりました。その後、研究グループはこの2つの超新星の光度曲線のモデルの計算を行い、爆発に至る星の進化についての可能性を明らかにしました (図3)。
 

 

研究グループによれば、まず爆発直前に星が大規模な膨張と収縮を繰り返す脈動を起こし、星から物質が大量に放出されます。この脈動は、質量が太陽の80倍から140倍という巨大質量星の内部が非常に高温になった時に、電子・陽電子の対が生成されることで星が不安定になるために起こります (関連記事参照)。星からの放出物は星周物質 (CSM) とよばれ、密度の高い星周物質に取り囲まれた星全体の半径は、通常の超新星爆発前の星よりはるかに大きくなります。

その後、星の中心部が重力崩壊を起こすと、強い衝撃波が星と星周物質の中を伝わっていきます。衝撃波が半径の大きな星周物質の表面に到達すると、その運動エネルギーが熱と光のエネルギーに変換されて、星が突発的に非常に明るくなり超高輝度の超新星が生じます。星周物質は比較的早く膨張して密度を下げ、エネルギーを失うため、超新星は早い段階で通常程度の明るさとなって暗くなっていきます。

こうした研究グループによる星の進化と爆発のモデルに基づいた光度曲線は、AT2018cow と SN2018gep の実際の観測データと良い一致を示しました (図4)。また、星周物質が無い場合のモデルについても検討したところ、その場合には光度曲線の立ち上がりが非常に遅い、すなわち、明るくなるまでの期間が長くなってしまうということが分かりました。この結果から、FBOT の爆発メカニズムにおいて星周物質が深く関連していることが分かりました。

研究グループは現在、巨大質量星でパルス状に起きる脈動の大きさの違いが、星周物質の質量の違いを生み出し、それが FBOT の明るさの挙動のばらつきを生み出すのではないかと提案しています。例えばもし、星周物質の質量が大きければ、大変明るいものの明るくなるまでに時間がかかる超高輝度超新星として観測されると考えられます。今後、今回の仮説をより多くの観測データによって確認すること、そして、星周物質の他の発生源についても探っていく予定です。
 

3. 発表雑誌
論文1.
雑誌名: Astrophysical Journal
論文タイトル: A Model for the Fast Blue Optical Transient AT2018cow: Circumstellar Interaction of a Pulsational Pair-instability Supernova
著者: Shing-Chi Leung (2,1), Sergei Blinnikov (1,3,4), Ken'ichi Nomoto (1), Petr Blakanov (3,5,6), Elena Sorokina (3,7) and Alexey Tolstov (8,1)
著者所属:
1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan;
2 TAPIR, Walter Burke Institute for Theoretical Physics, Mailcode 350-17, Caltech, Pasadena, CA 91125, USA
3 National Research Center “Kurchatov institute,” Institute for Theoretical and Experimental Physics (ITEP), 117218 Moscow, Russia
4 Dukhov Automatics Research Institute (VNIIA), Suschevskaya 22, 127055 Moscow, Russia
5 National Research Nuclear University MEPhI, Kashirskoe sh. 31, Moscow 115409, Russia
6 Space Research Institute (IKI), Russian Academy of Sciences, Profsoyuznaya 84/32, 117997 Moscow, Russia
7 Sternberg Astronomical Institute, M.V. Lomonosov Moscow State University, Universitetski pr. 13, 119234 Moscow, Russia
8 The Open University of Japan, 2-11, Wakaba, Mihama-ku, Chiba, Chiba 261-8586, Japan

DOI: 10.3847/1538-4357/abba33 (2020年11月3日掲載)
論文のアブストラクト (The Astrophysical Journal のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 

論文2.
雑誌名: Astrophysical Journal
論文タイトル: Fast Blue Optical Transients Due to Circumstellar Interaction and the Mysterious Supernova SN 2018gep
著者: Shing-Chi Leung (1), Jim Fuller (1), Ken’ichi Nomoto (2)
著者所属:
1 TAPIR, Walter Burke Institute for Theoretical Physics, Mailcode 350-17, Caltech, Pasadena, CA 91125, USA
2 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan

DOI: 10.3847/1538-4357/abfcbe (2021年7月8日掲載)
論文のアブストラクト (The Astrophysical Journal のページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)
 

4. 問い合わせ先
(研究内容について)
野本 憲一 (のもと・けんいち)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 上級科学研究員
E-mail: nomoto_at_astron.s.u-tokyo.ac.jp
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈 
E-mail:press_at_ipmu.jp
TEL: 04-7136-5977 
*_at_を@に変更してください
 

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