ビッグバンから10億年未満の銀河の大きさと明るさの関係を測定 -GLASS-JWST の初期成果-

2023年1月13日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
 

1. 発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)のLilan Yang (リラン・ヤン)東京大学特別研究員を中心とする国際研究チームは、新しいジェームス・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)(注1)が撮影した、宇宙開闢ビッグバンから10億年未満の宇宙初期の銀河の大きさと明るさの関係を調査した新しい研究成果を発表しました。
本研究成果は、天文分野では権威あり、また速報的な研究成果を報告する米国の査読雑誌The Astrophysical Journal Letters(アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ )に2022年10月18日付けで掲載されました。

2. 発表内容
【背景】この研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のTommaso Treu(トマソ・トリュー)教授が主導する、2021年に打ち上げられた最新かつ大型宇宙望遠鏡のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の早期公開科学プログラムの一環であるGLASS(Grim Lens-Amplified Survey form Space:重力レンズ効果を用いた宇宙探査)プロジェクトで行われたものです。これは、宇宙初期に第一世代の星・銀河が形成され、当時中性だった宇宙のガスを電離させた時期、それらの銀河からの光を観測できるようになった時期の研究を目的としたものです。第一世代の銀河によって宇宙の中性水素ガスが電離した時代は、「宇宙の再電離時代」(注2)と呼ばれています。
しかし、この再電離の時期、つまり我々から遠方にある暗い銀河を詳細に観測することは、これまでの望遠鏡では不可能であったため、その詳細は不明でした。再電離の時期がわかれば、星や銀河がどのように形成され、進化し、現在のような宇宙ができたのかを理解することができるようになります。

【研究手法・成果】
日本学術振興会特別研究員でもあるKavli IPMUのヤン氏とXuheng Ding(シュエン・ディン)特任研究員は、JWST宇宙望遠鏡のGLASS-JWSTプログラムのマルチバンドNIRCAM画像データを用いて銀河の大きさと明るさを測定し、銀河の静止系で紫外線から可視光の波長帯での個々の銀河の形態と大きさ−明るさの関係を明らかにする研究を行いました。
GLASS-JWSTプログラムは、JWST の近赤外線撮像装置(NIRISS)、近赤外線分光器(NIRSPEC)、近赤外線カメラ(NIRCAM)の3種類の装置とNIRCAMの7つのフィルターを利用します。NIRCAMを用いて、赤方偏移(注3)7 < z < 15の19個の明るい銀河について、個々の銀河の静止系で紫外線(約1600Å)から可視光(約4800Å)までの5つのバンドで、銀河の大きさ−明るさの関係を解析したところ、銀河の大きさは、可視光での大きさから期待されるよりも、紫外線では銀河の大きさが「小さい」ことを見つけました。

「世界が注目する、最先端の大型宇宙望遠鏡JWSTによって、赤方偏移が7より大きい銀河の性質について、銀河の静止系での可視光(太陽の光の波長)の銀河の明るさ、特にどのような明るさの銀河が何個あるか、を調べることが可能になりました。これらの銀河からの光が、宇宙の再電離過程を決定しているはずなので、今回の研究は極めて重要です。
我々からより遠く、宇宙の初期に存在する銀河から発せられた光は、宇宙の膨張のために、その光は長い波長で観測されます。例えば、我々が見る太陽からの光のような「可視光」の光が、宇宙の再電離時代の遠方の銀河から発せられても、その光は赤い波長、つまり「赤外線」で観測されます。このため、遠方宇宙の銀河の可視光での性質を調べるには、JWSTの赤外線の波長による観測が必須になります。有名な、これまでのハッブル宇宙望遠鏡は「可視光」の波長帯で宇宙を観測するため、遠方宇宙の銀河に対しては、銀河の静止系で紫外線でしか銀河を調べることができませんでした。JWSTで初めて遠方銀河の「可視光」での姿を明らかにすることができたのです。」と、筆頭研究者のヤン特任研究員は話します。

「研究者らは、赤方偏移で7より大きい銀河、すなわち宇宙開闢ビッグバンからおよそ8億年後の銀河について、初めて「可視光」での銀河の大きさと明るさの関係を明らかにしました。その結果、その時代の銀河の大きさは典型的に約450-600 パーセク、つまり我々の住む天の川銀河の約20倍小さいことが分かり、さらに銀河の大きさは可視光で見たときよりも紫外線で見たときの方が若干小さいことを発見しました。これは期待できたことでしょうか?答えは、正直分かりません、つまりこの第一世代の銀河についてはまだ何も分かっていません。シミュレーションによる理論的な研究は様々な予言をしており、混沌とした状況です」とヤン特任研究員は述べました。
また、研究チームは、大きさ–明るさの関係の観測から、銀河が可視光よりも紫外線の波長で小さく見えることを発見しました。「このことは、紫外線でのほうが銀河はより小さく、つまりコンパクトに見え、観測的には観測しやすい、ということを意味しています。つまり、銀河の静止系で紫外線での波長のほうが再電離時代の銀河が発見しやすく、見逃すことがないかもしれません。しかし、まだはっきりしたことは分かりません。」とヤン特任研究員は語っています。

【波及効果、今後の予定】
この研究はまだ始まったばかりで、より多くの銀河のサンプルを用いたさらなる研究によって、より明確な結果が得られるはずだと研究者達は述べています。

3.用語解説
(注1)JWST (James Webb Space Telescope)
アメリカ航空宇宙局(NASA)が中心となって開発を行っている赤外線観測用宇宙望遠鏡で、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機で、2021年12月25日に打ち上げられました。
JWSTは打ち上げ後、地球から見て太陽とは反対側150万kmの位置にある、太陽 - 地球間のラグランジュ点の1つに置かれました。

(注2)「宇宙の再電離時代」
ビッグバン後40万年から10億年後の間に起きた宇宙の再電離の時代に焦点を当てたものです。宇宙は誕生してすぐの高温状態から、膨張するにつれ徐々に温度が下がっていきプラズマ状態のガスが結合して中性状態となり、宇宙の晴れ上がりが起きました。しかし、その後再びガスが電離されて宇宙全体がプラズマ状態になりました。これを宇宙再電離と呼びますが、宇宙最初の星や銀河が形成された際、これらの星や銀河から放射された光によって宇宙が再電離しました。この再電離は、おそらく一度に引き起こされたのではなく、小さな領域で局所的に起こっていったと考えられています。

(注3)赤方偏移
物体からの光が、観測者から見て遠ざかるような運動によって波長が引き延ばされる現象。宇宙は膨張しているため、遠くの天体ほど我々から遠ざかる速度は早く、赤方偏移の値は大きくなります。つまり、赤方偏移の値が大きい天体を観測するということは、遠くのより昔の宇宙の天体を観測していることになります。
赤方偏移で7より大きい銀河については、ハッブル宇宙望遠鏡は「可視光」の望遠鏡ですが、それは銀河のところの「紫外線」の波長の光を観測することになります。紫外線の光は巨大星からの光で、銀河で多く生まれる太陽のような光を反映しません。
JWSTは「赤外線」の望遠鏡なので、銀河のところの太陽のような光の集まりを見ることができます。銀河で多く形成される大多数の太陽のような星からの光を見ることができるようになったのは、JWSTによる観測が初めてです。

4. 発表雑誌
雑誌名: The Astrophysical Journal Letters(アストロフィジカルジャーナル・レターズ)
論文タイトル: 
Early Results from GLASS-JWST. V: The First Rest-frame Optical Size–Luminosity Relation of Galaxies at z > 7

著者: 
L. Yang (1)、T. Morishita (2)、N. Leethochawalit (3,4,5), M. Castellano (6), A. Calabrò (6), T. Treu (7), A. Bonchi (6,8), A. Fontana (6), C. Mason (9,10), E. Merlin (6), D. Paris (6), M. Trenti (3,4), G. Roberts-Borsani (7), M. Bradac (11,12), E. Vanzella (13), B. Vulcani (14), D. Marchesini (15), X. Ding (1), T. Nanayakkara (16), S. Birrer (17,18,19), K. Glazebrook (16), T. Jones (12), K. Boyett (3,4), P. Santini (20), V. Strait (9,10), and X. Wang (2).

著者所属
1. Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, The University of Tokyo, Kashiwa, 277-8583 Japan
2. Infrared Processing and Analysis Center, Caltech, 1200 E. California Blvd., Pasadena, CA 91125, USA
3. School of Physics, University of Melbourne, Parkville, 3010, VIC, Australia
4. ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D), Australia
5. National Astronomical Research Institute of Thailand (NARIT), Mae Rim, Chiang Mai, 50180, Thailand
6. INAF Osservatorio Astronomico di Roma, Via Frascati 33, 00078 Monteporzio Catone, Rome, Italy
7. Department of Physics and Astronomy, University of California, Los Angeles, 430 Portola Plaza, Los Angeles, CA 90095, USA
8. ASI-Space Science Data Center, Via del Politecnico, I-00133 Roma, Italy
9. Cosmic Dawn Center (DAWN), Denmark
10. Niels Bohr Institute, University of Copenhagen, Jagtvej 128, DK-2200 Copenhagen N, Denmark
11. University of Ljubljana, Department of Mathematics and Physics, Jadranska ulica 19, SI-1000 Ljubljana, Slovenia
12. Department of Physics and Astronomy, University of California Davis, 1 Shields Avenue, Davis, CA 95616, USA
13. INAF - OAS, Osservatorio di Astrofisica e Scienza dello Spazio di Bologna, via Gobetti 93/3, I-40129 Bologna, Italy
14. INAF Osservatorio Astronomico di Padova, vicolo dell'Osservatorio 5, 35122 Padova, Italy
15. Department of Physics and Astronomy, Tufts University, 574 Boston Ave., Medford, MA 02155, USA
16. Centre for Astrophysics and Supercomputing, Swinburne University of Technology, PO Box 218, Hawthorn, VIC, 3122, Australia
17. Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology and Department of Physics, Stanford University, Stanford, CA 94305, USA
18. SLAC National Accelerator Laboratory, Menlo Park, CA 94025, USA
19. Department of Physics and Astronomy, Stony Brook University, Stony Brook, NY 11794, USA
20. INAF - Osservatorio Astronomico di Roma, via di Frascati 33, 00078 Monte Porzio Catone, Italy

DOI:10.3847/2041-8213/ac8803(2022年10月18日発行)
論文アブストラクト( アストロフィジカル・ジャーナル・レターズのページ)
プレプリント (arXiv.orgのページ)

5. 問い合わせ先
(研究内容について)
研究連絡先 [英語での対応]
Lilan Yang (リラン・ヤン)
日本学術振興会特別研究員
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) 東京大学特別研究員
電子メール:lilan-yang_at_g.ecc.u-tokyo.ac.jp
* at_を@に変えてください。

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 千葉 光史
E-mail:press_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください
TEL: 04-7136-5977 / 080-4056-2930