アルマ望遠鏡が明らかにした遠方銀河の活発な星形成

2015年10月15日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構  (Kavli IPMU)


1. 発表者

John D. Silverman(ジョン・シルバーマン)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任助教
 

2. 発表のポイント

  • 遠方のスターバースト銀河 (注1) をアルマ望遠鏡 (ALMA:注2) やビュール高原電波干渉計 (PdBI:
    注3) といった電波望遠鏡を用い観測した。
  • 近傍のスターバースト銀河と似た環境が遠方のスターバースト銀河でも見られることが分かった。
  • 本研究成果から、昔の宇宙でも現在と同じような環境下で爆発的な星形成が起きていた可能性が示された。
     

3. 発表概要

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のJohn D. Silverman (ジョン・シルバーマン) 特任助教らの研究グループは、南米チリのアタカマ高原にあるアルマ望遠鏡 (ALMA) やフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI) といった電波望遠鏡を用い、遠くの宇宙にある7つのスターバースト銀河の観測を行いました。その結果、遠方のスターバースト銀河の環境が、激しい星形成が起きている近くのスターバースト銀河と似ていることが分かりました。この結果から、昔の宇宙でも現在と同じような環境下で爆発的な星の形成が起きていた可能性が示されました。本研究成果は米国の天体物理学専門誌アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ  (Astrophysical Journal Letters) に2015年10月15日掲載されました。
 
 

4. 発表内容

図1: 銀河の合体の例 Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble     Collaboration and A. Evans (University of Virginia,     Charlottesville/NRAO/Stony Brook    University)図1: 銀河の合体の例
Credit: NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University)

銀河では時折、スターバーストと呼ばれる爆発的に星が作られる現象が起きます。こうした爆発的な星の形成が起きている銀河のことをスターバースト銀河と呼び、銀河の進化に重要な役割を果たしていると考えられています。我々の近くにあるスターバースト銀河では、ガスが星へと変換される効率が高いことが知られており、通常の銀河での星の形成とは違ったメカニズムを示している可能性があります。また宇宙の歴史を辿ると、従来の研究から銀河における星の形成は、90億年前に最も盛んだったことが知られています。しかし昔の宇宙でも、近くのスターバースト銀河で起きているようなガスから星への高い効率での変換が起きていたかどうか、あるいは昔の宇宙では充分すぎるほどのガス供給があったために活発な星形成がおきていたのかどうかなど、爆発的な星形成が引き起こされる物理的メカニズムは完全には明らかになっていません。星形成を盛んにするような環境がどのようなものかを調べ理解することは銀河の進化の過程を理解する上で重要です。



東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のJohn D. Silverman (ジョン・シルバーマン) 特任助教らの研究グループは、南米チリのアタカマ高地にあるアルマ望遠鏡 (ALMA) とフランスのビュール高原にあるビュール高原電波干渉計 (PdBI) の二つの電波望遠鏡を用いて、銀河同士の衝突を起こし星形成の盛んな遠くの7つの銀河が放つ一酸化炭素分子ガスの電波を観測しました。観測した7つの銀河は COSMOS フィールド (注4) と呼ばれる天域において赤外線宇宙望遠鏡ハーシェルが行った観測で見つけられた星形成の盛んな銀河です。さらにその一部は、ハワイのすばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器 FMOS (注5) を用いて2014年に近赤外領域での観測も行っています。FMOS の観測では、分光で得られる正確な赤方偏移 (注6) の値や星が作られる割合 (星形成率) 、金属量を測るのに用いられる水素原子や窒素原子、酸素原子それぞれから出される輝線を得る事が出来ました。

観測結果の解析から、今回観測した遠方のスターバースト銀河では、一酸化炭素分子ガスの量はすでに減少していたものの高い星形成率を保っており、期待されるほど早いガス量の減少はないものの、近くのスターバーストと似た状況を示していることが分かりました。この結果はつまり、昔の宇宙でも現在と似た環境下で爆発的な星形成が起きていた可能性を示したことになります。今回の研究成果はあらゆる望遠鏡を用い得られた結果ですが、なかでも遠方の銀河に存在するガスやダスト (塵) の密度が特に高い部分 (分子雲 注7) を詳細に調べる事のできる、アルマ望遠鏡の能力を生かし得られたものです。

John D. Silverman 特任助教は成果について「これらの観測は、高赤方偏移銀河の重要な性質を容易に観測できるアルマ望遠鏡の持つ特殊な能力を明確に示すもので、 今回の成果はアルマ望遠鏡によりもたらされた注目すべき結果です」と述べています。

今後、アルマ望遠鏡を用いた電波による観測と FMOS を用いた近赤外線による観測の両面から、遠方のスターバースト銀河をさらに調べることで、過去の宇宙においてどのような環境下で爆発的な星形成が起きていたのかをより詳細に明らかにし、過去から現在に至るまでの銀河の進化に迫ることが期待されます。

図2: 図2左図:アルマ望遠鏡で得られた PACS-867 銀河における一酸化炭素ガスの分布図。星形成の行われている外へも分子ガスのかたまりが分布している。図2中央の図:ハッブル望遠鏡の高性能カメラ ACS を用い得られた PACS-867 銀河の画像。銀河の合体の結果、大きくかき乱された構成物中に存在する若い星からの紫外線を示す。左図のガス分子の位置 (青の等高線) とダストに包まれ新しい星が作られている領域が重なる。図2右図:スピッツァー望遠鏡で得られた PACS-867 銀河の赤外画像 (3.6ミクロン) 。ダストにつつまれた星と分子ガスとの関連を示す。Left image credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU),  Center image credit: NASA/ESA Hubble Space Telescope, ALMA  (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU), Right image  credit:NASA/Spitzer Space Telescope, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman  (Kavli IPMU)図2: 図2左図:アルマ望遠鏡で得られた PACS-867 銀河における一酸化炭素ガスの分布図。星形成の行われている外へも分子ガスのかたまりが分布している。
図2中央の図:ハッブル望遠鏡の高性能カメラ ACS を用い得られた PACS-867 銀河の画像。銀河の合体の結果、大きくかき乱された構成物中に存在する若い星からの紫外線を示す。左図のガス分子の位置 (青の等高線) とダストに包まれ新しい星が作られている領域が重なる。
図2右図:スピッツァー望遠鏡で得られた PACS-867 銀河の赤外画像 (3.6ミクロン) 。ダストにつつまれた星と分子ガスとの関連を示す。
Left image credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU), Center image credit: NASA/ESA Hubble Space Telescope, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU), Right image credit:NASA/Spitzer Space Telescope, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Silverman (Kavli IPMU)

 

5. 発表雑誌

雑誌名:Astrophysical Journal Letters, 812, L23 (2015)

論文タイトル:A higher efficiency of converting gas to stars pushes galaxies at z~1.6 well-above the star-forming main sequence

著者:J. D. Silverman (1), E. Daddi (2), G. Rodighiero (3), W. Rujopakarn (1,4), M. Sargent (5), A. Renzini (6), D. Liu (2), C. Feruglio (7), D. Kashino (8), D. Sanders (9), J. Kartaltepe (10), T. Nagao (11), N. Arimoto (12), S. Berta (13), M. B´ethermin (14),A. Koekemoer (15), D. Lutz (13), G.Magdis (16,17), C. Mancini (6), M. Onodera (18), G.Zamorani (19)

著者所属:
1 Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
2 Laboratoire AIM, CEA/DSM-CNRS-Universite Paris Diderot, Irfu/Service d’Astrophysique, CEA Saclay
3 Dipartimento di Fisica e Astronomia, Universita di Padova, vicolo Osservatorio, 3, 35122, Padova, Italy
4 Department of Physics, Faculty of Science, Chulalongkorn University, 254 Phayathai Road, Pathumwan,Bangkok 10330, Thailand
5 Astronomy Centre, Department of Physics and Astronomy, University of Sussex, Brighton, BN1 9QH,UK
6 Instituto Nazionale de Astrofisica, Osservatorio Astronomico di Padova, v.co dell’Osservatorio5, I-35122,Padova, Italy, EU
7 IRAM - Institut de RadioAstronomie Millim´etrique, 300 rue de la Piscine, 38406 Saint Martind’H`eres,France
8 Division of Particle and Astrophysical Science, Graduate School of Science, Nagoya University, Nagoya,464-8602, Japan
9 Institute for Astronomy, University of Hawaii, 2680 Woddlawn Drive, Honolulu, HI, 96822
10 National Optical Astronomy Observatory, 950 N. Cherry Ave., Tucson, AZ, 85719
11 Graduate School of Science and Engineering, Ehime University, 2-5 Bunkyo-cho, Matsuyama
790-8577,Japan
12 Subaru Telescope, 650 North A’ohoku Place, Hilo, Hawaii, 96720, USA
13 Max-Planck-Institut f¨ur extraterrestrische Physik, D-84571 Garching,Germany
14 European Southern Observatory, Karl-Schwarzschild-Str. 2, 85748 Garching, Germany
15 Space Telescope Science Institute, 3700 San Martin Drive, Baltimore, MD, 21218, USA
16 Department of Physics, University of Oxford, Keble Road, Oxford OX1 3RH, UK
17 Institute for Astronomy, Astrophysics, Space Applications and Remote Sensing, National Observatory of Athens, GR-15236 Athens, Greece
18 Institute of Astronomy, ETH Z¨urich, CH-8093, Z¨urich, Switzerland
19 INAF Osservatorio Astronomico di Bologna, via Ranzani 1, I-40127, Bologna, Italy


DOI: 10.1088/2041-8205/812/2/L23  (2015年10月15日掲載)

論文のURL(Astrophysical Journal Lettersのページ)
プレプリント (arXiv.orgのウェブページ)
 

6. 問い合せ先

報道対応

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森真里奈
E-mail: press_at_ipmu.jp Tel: 04-7136-5977
携帯: 080-9343-3171 Fax: 04-7136-4941
*_at_を@に変更してください

研究内容について [英語での対応]

John D. Silverman(ジョン・シルバーマン)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 特任助教
E-mail: john.silverman_at_ipmu.jp 
*_at_を@に変更してください
 

7.用語解説:

(注1) スターバースト銀河
星の形成が通常の銀河と比べ爆発的に起きている銀河

(注2) アルマ望遠鏡 (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array:ALMA)
正式名称はアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計。南米チリのアタカマ高地の標高5000mに位置する電波望遠鏡。口径12mのパラボラアンテナ54台と口径7mのパラボラアンテナ12台の計66台からなる世界最高感度のミリ波からサブミリ波をカバーする電波望遠鏡。2013年に本格的に運用が開始された。東アジア、北米、ヨーロッパの国際共同プロジェクトで運営されており、東アジアの代表は日本の国立天文台である。

(注3) ビュール高原電波干渉計 (Plateau de Bure Interferometer:PdBI)
フランスにあるビュール高原の標高2550mに位置する口径15mのパラボラアンテナ7台から構成されたミリ波電波望遠鏡。ミリ波電波天文学研究所(IRAM)が運営している。2014年から2019年の完了を目指しNOEMA (NOrthern Extended Millimeter Array) としてアップグレードが行われている。

(注4) COSMOS フィールド
ろくぶんぎ座付近にある COSMOS フィールドと名付けられた天域のこと。宇宙進化サーベイ (Cosmic Evolution Survey) のプロジェクトは、この天域をすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など様々な観測装置で且つ様々な波長で観測することにより銀河の形成や進化の謎に迫ろうとしている。
 
(注5) FMOS (Fiber Multi-Object Spectrograph)
ハワイのマウナケア山に位置するすばる望遠鏡に搭載されたファイバー多天体分光器。400本の光ファイバーを用い多数の天体を同時に近赤外線で分光観測できる。

(注6) 赤方偏移
物体からの光が、観測者から見て遠ざかるような運動によって波長が引き延ばされる現象。宇宙は膨張しているため、遠くの天体ほど我々から遠ざかる速度は早く、赤方偏移の値は大きくなる。つまり、赤方偏移の値が大きい天体を観測するということは、遠くのより昔の宇宙の天体を観測していることになる。

(注7) 分子雲
ガスやダストの密度が特に高い部分。主成分である水素分子のほか一酸化炭素やアンモニアをはじめとした炭素や窒素、酸素などからなる分子も存在することが分かっており、星が生まれる上での材料となる。分子雲は可視光を遮ってしまうため、分子雲で星が作られていく様子の観測には赤外線や電波が用いられる。
 

8. 参考画像

画像は http://web.ipmu.jp/press//20151015-pacs867 からダウンロード可能です。