高校生のためのサイエンスキャンプ 「現代数学と現代物理学の新たな遭遇」

サイエンスキャンプ「現代数学と現代物理学の新たな遭遇」が3月23日から25日までの3日間IPMUで開催されました。

最先端で活躍する研究者から直接指導を受けたり、直に接触する機会を高校生に提供する、日本科学技術振興財団が主催する体験合宿型プログラムです。

プログラムの概要は日本科学技術振興財団ホームページ(http://ppd.jsf.or.jp/camp/)をご覧ください。


サイエンスキャンプ「現代数学と現代物理学の新たな遭遇」

東京大学数物連携宇宙研究機構

2010年3月23日(火)~3月25日(木)

最近の素粒子物理学で脚光を浴びている「ひも理論」は宇宙の始まりや進化にも密接に関係していると考えられるようになってきました。しかし、「ひも」の世界 は我々の住む3次元空間よりずっと複雑で、解明のためには、現代数学の非常に抽象化された概念と方法が使われます。このような形で現代数学と現代物理学の 新たな遭遇が始まっています。

このキャンプでは、歴史の話を含めた講義や簡単な思考実験、そして研究者とじかに話し合って、19世紀以降 発展してきた現代数学の一端に触れてみましょう。数学だからといって、かたくかまえる必要はありません。とくに準備の必要もありません。参加して、その場 で聞き、計算し、考えるだけで十分です。きっと、自由自在に思考が広がる数学の魅力を再発見するでしょう。


プログラム

無限を数えてみよう

東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授 土屋昭博

宇 宙に満ちているエネルギーや粒子がどのように分布しているかを解明することは137億年前の宇宙誕生以来の宇宙発展の解明に重要な手掛かりを与えます。こ こでは、ボゾンとフェルミオンと呼ばれる2種類の粒子の数え方について、簡単なおもちゃを作り、これらの無限個の状態を数える思考実験を行います。これを 数式化することにより、2つの結果が一致することを確認します。結果はヤコビの3重積公式と呼ばれる不思議な等式を生み出します。この一致は驚くべきもの であり、整数論をはじめとして、現在でも数学、物理学のいたるところに現れます。

 

ニュートン、マックスウェル、アインシュタインにみる時間空間概念の発展

東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授 土屋昭博

ニュー トンによる古典力学、マックスウェルによる電磁気学、アインシュタインによる特殊相対性理論や一般相対性理論の発展が、いかに時間空間概念の発展を導いた かを、歴史を切り取り、後知恵を交えて話します。みなさんもシャーロック・ホームズになったつもりで、どのような謎が生まれ、どのように考えられ、その謎 が解明されていったかを追体験してみましょう。内容的には、高校で学習する数学や物理学の内容を越えた内容を話します。しかし、まだ数学・物理学の内容を 学習していなくても心配ありません。この講義時間に、今みなさんが持っている知識を総動員して考えてください。ここで学習した具体的内容を覚える必要もあ りません。現在の研究最前線も、ここでみなさんが追体験するようなさまざまな方法や考えに沿って、宇宙の謎にせまっているのです。

参考書

この講義を聞いて、さらにすすんで学習してみようと思う人のためにあげてみました。この講義のスタイルに似ているものとしては「時間、空間、そして宇宙」があります。「物理学はいかにつくられたか」は特に推薦します。

  1. 「物理学はいかにつくられたか 上・下」アインシュタイン・インフェルト著 石原純訳 岩波新書
  2. 「時間、空間、そして宇宙」戸田盛和著 岩波書店
  3. 「神は老獪にして・・・アインシュタインの人間と学問」アブラハム・パイス著 金子務ほか訳 産業図書
  4. 「物理学入門」和田純夫著 岩波書店
  5. 「物理は自由だ・・・力学」江沢洋著 岩波書店
  6. 「電磁気学の考え方」砂川重信著 岩波書店
  7. 「相対性理論の考え方」砂川重信著 岩波書店

 

多面体の幾何学から空間の広がりをみる

東京大学大学院数理科学研究科教授 河野俊丈

  1. 正多面体から球面の幾何学へ

    正 多面体はプラトン体ともよばれ,5種類存在します.正多面体をふくらますことにより球面の規則正しい分割を得ることができます.球面上の幾何学ではユーク リッド幾何学と異なって,三角形の内角の和が180度よりも大きいという性質をもちます.これをもとにして,球面上の三角形の面積などについて考えてみま しょう.

  2. 非ユークリッド幾何学の発見

    紀元前3,4世紀に書かれたユークリッドの原論には,平行線に関する第5公準とよば れるものがあり,これを他の公理から証明しようという試みが長年にわたって行われました.19世紀にボヤーイ,ロバチェフスキーによって第5公準を満たさ ない「非ユークリッド幾何学」が存在することが示されました.そこでは,三角形の内角の和が180度よりも小さいという性質が成り立ちます.

  3. 曲がった空間とは

    我 々が住んでいる空間が曲がっているかどうかを確かめるにはどのようにすればよいでしょうか.アインシュタインの理論により,空間では光の進む経路が「直 線」の役割を果たします.十分離れた3点を光で結び,できる三角形の内角の和と180度を比べることが考えられます.空間の曲がりぐあいは観測してみない と分からない物理学の問題なのです.

  4. 高次元空間の多面体をみる

    4次元空間の多面体の影を3次元空間内にうつすことにより,4次元の多面体を実際に目に見えるように表すことを考えてみましょう.さらに,このような方法を用いて,3次元の曲がった空間のイメージをとらえることを試みます.

参考書

  1. 「ユークリッド幾何から現代幾何へ」小林昭七著 日本評論社 1990年
  2. 「曲面の幾何構造とモジュライ」河野俊丈著 日本評論社 1997年

 

My Studies

東京大学数物連携宇宙研究機構特任研究員 Susanne Reffert

I was born in Switzerland, but both my parents are German. I have always been curious about the world works. Already as a child, I wanted to become a scientist. Nevertheless, I attended a "Classical" high school, not a scientific one. In Europe, "classical" means that Latin is a main subject. During high school, my favorite subject was Chemistry. As a hobby, I started growing crystals from different salts such as copper sulfate at home. Later, I started reading physics books in my spare time and so became interested in physics. I also learned the programming language C, since I was interested in computers. In the last year of high school, I participated at a National Science Competition and was chosen to represent Switzerland at the European Contest. After finishing high school, I enrolled at the Swiss Federal Institute of Technology in Zurich to study physics. I chose physics because it is the most fundamental of the natural sciences. I realized that I was more drawn to theoretical studies and mathematics than experiments. For my diploma, I specialized on particle physics and field theory. After receiving my diploma, I moved to Berlin to begin my doctoral studies under Prof. Dieter Lust at the Humboldt University in the field of string theory. After one year, I had to move to Munchen, since my advisor had accepted a chair there. After 3 years, I completed my thesis. I then moved to Amsterdam, to work as a postdoctoral fellow under Prof. Robbert Dijkgraaf. During this time, I got married to Domenico Orlando, a fellow string theorist and my collaborator. In September 2008, my husband and I moved to Japan to work as project researchers at IPMU.

 


ティーチングアシスタント

東京大学大学院数理科学研究科 修士課程1年 古川遼

現 在東京大学大学院数理科学研究科の修士1年で位相幾何学を専門にしています。低次元の多様体を区別する量(不変量)に興味を持っています。特に最近は、3 次元空間内の結ばれた紐である「結び目(絡み目)」から始まり、それをもとに作られた3次元多様体の不変量と、その不変量を用いて構成される位相的場の理 論について勉強しています。また、シンプレクティック多様体と呼ばれる多様体についても興味を持って勉強しています。科学全般に関して言うと宇宙の起源や 構造などの理論的なことにもともとは興味があり、あいまいな部分がなく理論を知りたいとの思いから数学を専攻することにしました。将来は数学的(幾何学 的)な視点から物理や宇宙の構造などとの関わりをみつけ、理解することにつなげられたら嬉しいと考えています。科学や数学の面白さ、中でも実験ではなく理 論的な研究の面白さは、視覚化の問題などもありなかなか伝えることが難しいですが、伝えていくことは必要であると思います。自分も中学や高校時代、講演な どでさまざまな研究の面白さを知り、科学や数学に強く魅力を感じるようになりました。今回のサイエンスキャンプでは、高校生がより深く科学や数学に興味を もち、理解するきっかけをつくるために、少しでも役立てたら幸いです。