IPMU新研究棟完成記念式典

IPMUでは、延床面積5,974㎡、地上6階建ての新研究棟の完成を記念して、2010年2月23日(火)に完成記念式典・祝賀会を挙行しました。

当日は来賓および学内関係者など約150名が出席しました。

研究棟の中心部である3階の藤原交流広場を会場とする式典は、東京大学音楽部管弦楽団の弦楽四重奏を合図に開始され、村山機構長の挨拶のあと、東京大学の濱田純一総長がIPMUへの期待を述べられました。

また、東京大学が設立を検討中の「高等研究所」のひとつにIPMUを位置づけ、学内における恒久化と一部の教員ポストのテニュア化を図るとの決意を表明されました。

続いて、文部科学省 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(推進調整担当)の岡谷重雄氏、日本学術振興会 学術システム研究センター副所長の黒木登志雄氏よりあたたかい祝辞をいただき、研究棟の設計者である新領域創成科学研究科の大野秀敏教授からは、この研究棟の設計にあたり、「研究者達のコミュニケーションを誘発する『力のある場所』としての魅力を追求」したことなどが紹介されました。式典後は参加者に研究棟を自由に見学していただきました。

祝賀会では、研究者、事務職員などIPMUの関係者で構成されるIPMU室内管弦楽団と東京大学音楽部管弦楽団による、グスターヴ・ホルストの組曲「惑星」より「木星」の演奏が行われるなどの楽しい催しもあり、村山機構長もコントラバスを演奏しました。

村山機構長村山機構長

村山機構長スピーチ

 淑女・紳士の皆様、来賓の方々、同僚、スタッフ、友人の皆さん、

 今日はこの新研究棟完成式典に来ていただき、ありがとうございます。これは私たちの多くに取って特別な日です。夢は滅多に叶いません。今日、いくつかの夢が叶いました。

 私たちはここで宇宙についての五つの根本的な疑問に迫りたいと思っています。宇宙はどうやって始まったのか、運命は何か、何で出来ているのか、その基本法則は何か、そしてその宇宙にどうして私たちがいるのか。勿論こうした研究は先人たちの努力の上に成り立っています。例えばガリレオです。彼の有名な言葉「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」はこのオベリスクに書かれていて、私たちの座右の銘になりました。ここがモデルになっているイタリアの街の広場で活発に議論を交わし、自分の理論を考えました。ピサの斜塔からボールを落として自分の考えを実験的に確かめたというウソらしいですが有名な逸話があります。しかし研究者の皆さん、ここでは試さないで下さいね。神岡坑内、すばる望遠鏡、そしてLHCのデータを使って安全にお願いします。

 こうした研究活動を可能にするために、建物が必要でした。皆さんなくしてはこのプロジェクトは始まることも、途中の困難を乗りこえることも、完成することもできませんでした。皆さんなくしては建物をデザイン・設計し、建築し、設備を取り付け、内装をし、家具を入れることはできませんでした。皆さんなくしてはこの建物をこんなに魅力的な、来てみたくなる、わくわくするものにすることはできませんでした。皆さんなくしてはこのプロジェクトを遂行し、バレーボールコートを壊す許可を得、騒音・トラブルに耐え、最後まで協力していただくことはありませんでした。産みの苦しみを乗りこえることができたのはひとえに皆さんのお蔭です。新研究棟は生まれました。夢が叶いました。いつもいろんな人に言うのですが、「ここはとても効率の良い国です。このプロジェクトはバークレイなら5年、もしかすると永遠に終わらなかったでしょう。」

 そして今日もう一つの夢も叶ったのです。それは研究者の皆さんです。皆さんが居なくては、このきれいな新研究棟も無駄、無意味です。あなたたちがこの建物を使う様子が私の喜びです。朝震える程寒くてもこの建物が気に入っているのでちゃんとオフィスに来る様子、昼食から帰って来てエスプレッソのカップを持ちここの黒板で議論を始める様子、毎日お茶の時間へ来て、ボランティアの焼いてくれたクッキーを食べ、話を始める様子。生活情報を交換し、食事や、趣味や、職探しの話、ついさっき聞いたセミナーの内容について、今日出た新しい論文について、そして突然ちょっとしたアイディアが浮かぶ。もしかしたらずっと考えていた問題の解答のきっかけ、そして興奮、混乱、技術的な問題、そしてその後午後ずっと仲間と議論するよう様子。これこそがこの建物を建てた理由です。これが今日もう一つの叶った夢です。

 しかし未だ叶っていない夢があります。私たちがこの機構を作ったのは、大学の中で、研究者コミュニティーの中で、一般の人の目に、そして歴史の流れの中で、何らかの貢献をするためです。この建物から誇りに思えるようなアイディア、実験、画像、スペクトル、コンピューターの中のデータが生み出されるようになりたいのです。いつか今を振り返って、「IPMUが無かったら宇宙の理解はこうは進歩しなかったろうね」と言われるようになりたいのです。これがまだ叶っていない夢です。

 この夢をかなえるためには、この部屋にいる、そしてより広く多くの人の更なるご協力が必要です。よろしくお願い致します。この良き日を、そしてIPMUの今後を支えていただき、皆様にお礼申し上げます。本当にありがとうございます。

濱田総長濱田総長

濱田総長スピーチ

「東京大学数物連携宇宙研究機構棟」の竣工記念式典にあたり、一言お祝いを申し上げます。まず始めに、この機構棟の完成に尽力された多くの関係者の皆様に心から感謝申し上げます。

 数物連携宇宙研究機構は、平成19年に文部科学省が公募した「世界トップレベル研究拠点形成プログラム、いわゆるWPIプログラムに、全国で5拠点の一つとして採択されました。この機構は、数学と物理学の連携により、宇宙の始まりや将来の運命、宇宙のエネルギーの96%を占めるという未知のダークマターやダークエネルギーの正体解明など、宇宙の様々な謎に挑む、基礎科学の中でも最も基礎の部分を担う研究組織であります。また、WPIプログラムは、世界から第一線の優れた研究者を多数結集し、「国際的に目に見える研究拠点形成」を目指すため国が重点的支援を行うという、従来にない新しい試みであり、ホスト機関である東京大学は、多くの点において既存のシステムを改革することによりこの目的を実現することを総長のコミットメントとして約束しております。

 東京大学は、数物連携宇宙研究機構の機構長として素粒子理論の若き俊秀、村山斉氏をカリフォルニア大学バークレー校から招き、国際的な研究組織にふさわしく、その本拠地を、国際キャンパスとして整備しつつある柏キャンパスに置くこととし、また、総長のイニシアティブにより機動的にWPIプログラムの目的を達成するため、機構を総長室直属の学際的組織として位置づけました。このようにして、平成19年10月1日に、まさにゼロから数物連携宇宙研究機構が発足いたしました。以来、2年半足らずの短期間に、「国際的に目に見える国際研究拠点」形成に向けて、既に専任研究者の60%が、世界各地から参集した優れた外国人研究者であること、同じ研究分野の世界の研究者による機構の認知度がWPI拠点の中でも抜きん出ていることなど、WPIプログラム委員会からも高く評価される実績を上げていることを、ホスト機関の長として、うれしく、誇りに感じておりますとともに、村山機構長の弛まぬ努力と挑戦に感銘を受けている次第であります。また、最近、東京大学はカリフォルニア大学バークレー校と教育研究交流を強化する全学協定を締結しましたが、これも村山機構長が仲介に奔走した結果であり、東京大学の国際化に果たす機構の役割の大きさを示すものであります。

 東京大学はホスト機関として、数物連携宇宙研究機構の基盤整備にも責任を負っております。ゼロから出発した機構の最大の問題点の一つは、自前の研究棟を所有していないことであり、快適な研究環境を整えることは急を要する課題でありました。このため、東京大学は機構棟建設に向けて学内資金の活用等、大学全体をあげての支援を行ってまいりました。本日ここに、機構棟の完成をみることができましたのは、東京大学全体にとっても大きな喜びであります。本機構棟は外観においても柏キャンパスの従来の建物とは異なる非常にユニークな設計であり、柏キャンパスのランドマークとなることでしょう。また、会議室・セミナー室等の設備も充実しています。特にこの式典会場では、欧米の一流の研究機関で行われ、知的生産性に大きな役割を果たすことが知られているティータイムが毎日催され、数学、物理学、天文学の研究者が自由に議論を交わすということであり、正に「知の連携の交流広場」というべき場所であります。この充実した研究環境から多くの新たな成果が生み出され、東京大学の「世界を担う知の拠点」としての活動の重要な構成要素となる日も遠くはないと確信しているところです。
また、外国から多くの研究者を迎えるにあたり宿舎の不足も懸案事項でありました。このたび、本学の柏インターナショナルロッジが完成し、近く運用を開始しますが、特例措置として数物連携宇宙研究機構に16戸の割り当てを行ったところであります。

 考えてみれば、発足以来今まで、機構棟完成前の仮住まいで、また宿舎もないという状態にもかかわらず、先ほど申し上げたように、既に多くの優れた外国人研究者を招聘し、拠点形成に向けて実績を上げてきたことは、信じがたいと言わざるを得ません。機構棟の完成と柏インターナショナルロッジの運用開始を契機として、数物連携宇宙研究機構のさらなる飛躍的発展が疑いなく期待できる所以であります。

 このように、WPI拠点として数物連携宇宙研究機構が直面する最大の問題の一つである基盤整備はほぼ解決しましたが、このほかにも2つの重要な問題があります。WPI拠点は文部科学省から5年目の中間評価によるチェックを経て10年間の支援が約束されております。更に、高い評価を得た拠点に対しては、5年間の支援延長の可能性があります。しかしながら、公的な支援はいずれ終了し、その後はホスト機関の自己努力による存続が求められており、WPIプログラム委員会からも東京大学がどのようにして数物連携宇宙研究機構を存続させるかが問われておりました。これが一つの問題です。もう一つの問題は、数物連携宇宙研究機構は、いわゆるテニュアの教員ポストを持たないため、優秀な研究者のリクルートで不利に働くことであり、この点も改善が求められております。

 東京大学では学内に常設的な組織として複数の「高等研究所」を設立する構想をもち、決定に向けて議論を進めていることを申し上げたいと思います。この構想が実現した場合、私は、既に高く評価される実績を上げている数物連携宇宙研究機構を、「高等研究所」の一つとして学内組織に組み込み、WPIプログラムによる支援の終了後も東京大学において存続させること、また、この際に、数物連携宇宙研究機構の一部の教員ポストを、学内の定年年齢まで特任として契約を継続することにより、実質的にテニュア化する決意であることを表明いたします。このようにして数物連携宇宙研究機構の直面する2つの問題の解決を図るとともに、東京大学は今後とも数物連携宇宙研究機構を全学的に支援して参ります。

 最後に、この恵まれた研究環境のもとで、数物連携宇宙研究機構が真に持てる力を発揮し、研究成果と人材の育成に対する社会の期待に応えるため、そして、東京大学が目指す「世界を担う知の拠点」としての活動推進のため、機構関係者の一層の努力と、学内外の皆様のご理解・ご支援をお願い申し上げまして私の挨拶とさせていただきます。

濱田総長濱田総長
大野教授大野教授
  
IPMU室内管弦楽団IPMU室内管弦楽団
新棟紹介リーフレット(PDF, 1MB)新棟紹介リーフレット(PDF, 1MB)