見えない光で発見!96億年前の巨大銀河の集団 --田中賢幸特任研究員--

2010年5月10日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称IPMU)

数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe, 以下 IPMU)の田中賢幸特任研究員は、ドイツ・マックスプランク研究所のAlexis Finoguenov研究員、京都大学・宇宙物理学教室の上田佳宏准教授と共に、現在までに知られている最も遠くの銀河集団を、X線・近赤外線という目に見えない光を使って発見しました。

 この研究論文は米国のAstrophysical Journal Letters誌に掲載が決まっています。

発表雑誌:米国雑誌 The Astrophysical Journal Letters 号・巻は未定
論文タイトル:"A spectroscopically confirmed X-ray cluster at z=1.62 with a possible companion in the Subaru/XMM-Newton deep field"
著者:M. Tanaka, A. Finoguenov, and Y. Ueda

 


本件に関するお問い合わせ先

研究内容

田中賢幸 略歴

東京大学数物連携宇宙研究機構特任研究員。2007年東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修了後、ヨーロッパ南天天文台研究員を経て、2010年より現職。主な研究分野は銀河形成・進化とその環境依存性。

  • IPMU特任研究員 田中賢幸 Masayuki Tanaka 

Tel. 04-7136-6525

E-mail. masayuki.tanaka _at_ ipmu.jp

  • マックスプランク研究所 Alexis Finoguenov(英語)

Tel. +49-(0)89-30000-3644

E-mail. alexis _at_ mpe.mpg.de

報道対応

  • IPMU広報担当 宮副英恵 Fusae Miyazoe

Tel. 04-7136-5977

E-mail. press _at_ ipmu.jp


研究内容解説

宇宙には銀河が住んでいます。夜空を見上げると広がっている、淡い天の川も一つの銀河で、私たちのいる地球はこの天の川銀河に属しています。天の川銀河は全く特別な存在ではなく、宇宙には数え切れないほどの銀河が存在しています。銀河は宇宙の中でくもの巣の糸のように分布していて、その糸と糸の結び目に巨大な銀河集団、銀河団が存在しています。数物連携宇宙研究機構の田中賢幸特任研究員らは、現在までに知られている最も遠くの銀河集団を、96億年前の宇宙に発見しました。それも、目に見えない光を使って。

宇宙には、渦巻きを持った銀河・持たない銀河、赤い銀河・青い銀河、といった具合に、さまざまな銀河が住んでいます。こういった銀河の形や色は、銀河のいる場所によって大きく変わることが知られています。青い渦巻きを持った銀河は、たいていひとりぼっちでいます。一方、赤く腕のない銀河は、銀河の大集団、銀河団にしばしばいることがわかっています。このように、銀河の色・形は住む場所によって変わることが知られていますが、その明確な原因はまだわかっていません。

それを突き止める一つの方法として、より遠くの宇宙を調べることが考えられます。宇宙はタイムマシンのようなものなので、遠くを見れば、過去に遡れます。銀河の色・形が住む場所によって変わるようになったのは、いつなのでしょうか?その謎を紐解く一つの手段として、田中特任研究員らは遠くの宇宙の銀河団を探しました。銀河団に赤い銀河が多くなったのはいつなのかを明らかにするためです。そして、くじら座の方角に一つの銀河団候補を見つけました。

この銀河団は非常に遠くにあると思われ、銀河までの距離を測り、銀河が密集していることを確認するには、私たちの目には見えない近赤外線という光を使う必要がありました。これは非常に難しい観測で、複数の天体までの距離を測るのは、とても困難です。しかし、すばる望遠鏡が世界に誇る近赤外装置、MOIRCSがこの困難な観測を可能にしてくれました。そして、巨大銀河までの距離を測ることに成功し、それらが96億年前に密集していることを確認したのです。

銀河団のさらなる証拠が、もう一つの見えない光によってもたらされました。一般に、銀河団は高温のガスを大量に持っていて、それがX線を放っています。X線は病院のレントゲン撮影でおなじみですが、宇宙からのX線は地上からは観測できません。そこで、地球を周回するXMM-Newton衛星のX線データを、X線の専門家Finoguenov研究員が丁寧に解析しました。そして、銀河団からの大きく広がったX線を見つけることに成功しました。

この近赤外線観測で確認した巨大銀河の密集と、広がったX線の検出の二つは、銀河が強い重力で束縛され集まった、本物の銀河団である強力な証拠です。今までに知られていた、最も遠くの銀河団は92億年前にあります。目に見えない光を使った今回の発見は、その記録を更新しました。

さて、この銀河団を詳しく調べてみると、96億年前という昔の銀河団にも関わらず、赤い銀河が多くいることがわかりました。冒頭で述べた、赤い銀河が銀河団を好むという傾向は、この時代にすでにできあがっていたようです。銀河の赤い色は、銀河が長い間新しい星を生んでいないことを示していて、星の集団である銀河にとって、これは銀河の成長が止まっていることを意味します。銀河が集団化するその非常に早い段階で、多くの銀河の成長が止まったことが、今回の観測から示唆されました。

現在、宇宙は137億歳であると言われています。つまり、96億年前よりももっと昔から宇宙は存在していました。いつどのようにして銀河団の中で、銀河は赤くなっていったのでしょうか?今回の結果を受け、より昔の銀河団を探す次の研究が始まっています。

 

銀河団周辺の疑似カラー画像。3.4分角×3.4分角の空の領域を示していて(1分は角度で60分の1度)、96億年前の宇宙では一辺がおおよそ5,700,000光年の長さに対応します。矢印で96億年前付近にいると思われる銀河を示していて、矢印のついた銀河が画像の中心に集まっている様子が見えます。等高線はX線の強さで、銀河集団からX線が検出されています。そして、丸が近赤外観測による距離測定から、銀河団に属すると確認された銀河です。距離測定から確認された銀河はまだ少ないのですが、それでもX線と合わせて銀河団の確実な証拠と言えます。

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