ついに発見、「軽い」星の重力崩壊型超新星 ー星の標準理論を検証ー --前田啓一特任助教--

2010年5月10日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称 IPMU)

広島大学宇宙科学センター 川端弘治准教授、東京大学数物連携宇宙研究機構 前田啓一特任助教、野本憲一特任教授・主任研究員、田中雅臣特任研究員らを中心とする研究グループは、特異な超新星SN2005czに対して、すばる望遠鏡などを用いた観測を行いました。その結果、この超新星は太陽の10倍程度の質量をもって生まれた星がその生涯の最期に爆発した超新星であることを突き止めました。これは、星の標準理論から予想される、「超新星として爆発する星」と「静かに生涯を終える星」のちょうど境目にあたります。このような超新星は宇宙で発生する超新星の多くを占めるはずですが、現在までの観測例はもっと重い星を起源とする超新星ばかりであり、超新星を起こす星の質量の下限は観測的には検証されていませんでした。本研究によりその性質が明らかになったことで、星の進化理論が検証され、超新星が宇宙の進化に与えた影響を研究するうえでも重要な手掛かりになると期待されます。


この研究成果は英国の科学学術誌 Nature に掲載されました。


発表雑誌:Nature 2010年5月20日号
論文タイトル:A Massive Star Origin for An Unusual Helium-Rich Supernovae in An Elliptical Galaxy
(和訳:楕円銀河に現れた特異なヘリウム過剰な超新星は大質量星が起源である)
著者:川端弘治、前田啓一、野本憲一、Stefan Taubenberger、田中雅臣、Jinsong Deng、Elena Pian、服部尭、板垣公一
解禁日:2010年5月20日午前3時(20日朝刊より)


本件に関するお問い合わせ先

研究内容

 前田啓一 略歴

東京大学数物連携宇宙研究機構特任助教。2004年東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(東京大学総合文化研究科)、日本学術振興会海外特別研究員(マックスプランク研究所)を経て、2007年12月より現職。2009年度日本天文学会研究奨励賞受賞。専門分野は超新星爆発の理論・観測的研究。

  • IPMU特任助教 前田啓一 Keiichi Maeda

Tel. 04-7136-6559

E-mail. keiichi.maeda _at_ ipmu.jp

  • IPMU特任教授・主任研究員 野本憲一 Ken'ichi Nomoto

Tel. 04-7136-6567

E-mail. nomoto _at_ astron.s.u-tokyo.ac.jp

報道対応

  • IPMU広報担当 宮副英恵 Fusae Miyazoe

Tel. 04-7136-5977

E-mail. press _at_ ipmu.jp


研究内容解説

 

星の進化の理論によると、太陽のような星は、生まれたときの質量に応じてその生涯が決まります。太陽質量の約8-10倍よりも重い星は最終的に自分自身の重力によって中心部がつぶれ、その際に超新星爆発を起こして明るく光り輝くと考えられています(*1)。宇宙には軽い星ほど数多く存在するため、太陽の約10倍程度の質量をもつ星は、超新星爆発を起こす星の中では最も数が多いはずです。

一方、このような超新星は観測的に同定されていませんでした。観測されている超新星はみな太陽質量の12倍を超える星の爆発ばかりなのです。このような星が本当は爆発しないとすると星の進化の基礎理論に大幅な修正が必要です。さらに、天文学の多くの分野で、このような超新星は数が多いという予想をもとに理論が構築されています。これらの星が実際には爆発しないとなると、天文学のさまざまな分野で修正が必要となるため、爆発するか否かという末路は星の進化という天文学の一分野を越えた重要な問題です。

同研究グループは、すばる望遠鏡などにより、アマチュア天文家である板垣公一氏(同研究グループ)の発見した超新星2005czの観測を行いました。その結果、この超新星のさまざまな奇妙な振る舞いを突き止めました。それは、通常重い星の存在しない楕円銀河に現れたこと、通常の超新星の5分の1程度の明るさであったことなどが挙げられます。特に、すばる望遠鏡による分光観測は、これが理論的に予想されていた、酸素からの放射が弱くカルシウムからの放射が非常に強いという「軽い星」の爆発の特徴を持つことを明らかにしました。これらの他の超新星と異なる振る舞いは一見不可解でしたが、この超新星は「軽い星」の爆発であればすべて矛盾なく説明できます。なお、本論文の掲載号では、SN2005czと似た性質をもつSN2005Eに対して、白色矮星表面での爆発であるという興味深い説が提案されていますが(Perets et al. 2010, Nature)、少なくとも2005czの観測事実はこれまでの重力崩壊型超新星理論の範疇で説明できそうです。

本研究により、宇宙の中で数が多いはずの8-12太陽質量の星を起源とする超新星が見つかったことで、星の進化理論が大筋で正しいことが検証されました。この超新星は非常に暗く、かつ急激に減光しました。これが同種の超新星が今まで見つからなかったことの原因の一つであると考えられます。このような「軽い」星を起源とする超新星は、宇宙におけるさまざまな「起源」として重要です。例えば、生命を作る基本元素である炭素・窒素といった元素の主要な供給源であると考えられていますし、また、IPMUではスーパーカミオカンデを用いて宇宙背景ニュートリノの探索を行っていますが、今回見つかった種類の超新星はその主要な起源を担っていると考えられます。今回の研究成果は、このような関係分野にも波及されることが期待できます。


図1

すばる望遠鏡による超新星SN2005czの画像。

撮影日は2005年8月10.3日UT、視野は約3分角×2分角。矢印の先が超新星。

矢印の先が超新星。超新星の右上に写っている天体は、超新星が属する楕円銀河 NGC4589。

 

※国立天文台すばる望遠鏡提供

 


図2

超新星2005czのすばるによるスペクトル(赤線)と他の超新星との比較。

超新星2005czはⅠb型超新星に分類され、これは通常酸素からの放射([O Ⅰ]のラベルのある輝線)が最も強いが、2005czはこの放射が非常に弱く、代わりにカルシウムからの放射([Ca Ⅱ])のラベルのある輝線)が卓越した。


脚注

*1)他に、白色矮星の核爆発もIa型超新星として光り輝きますが、ここでは重い星の重力崩壊型超新星を単に超新星と表記します。


関連サイト 

 

研究者リスト

川端弘治 (広島大学 宇宙科学センター・准教授)

前田啓一 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任助教)

野本憲一 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・特任教授/主任研究員)

Stefan Taubenberger (マックスプランク天体物理学研究所)

田中雅臣 (東京大学 数物連携宇宙研究機構・研究員)

Jinsong Deng (中国 国家天文台)

Elena Pian (イタリア 国立ピサ高等研究員)

服部尭 (国立天文台 ハワイ観測所・研究員)

板垣公一 (板垣天文台)