銀河同士の相互作用で促進される超巨大ブラックホールの成長 --John Silverman--

 2011年10月25日
数物連携宇宙研究機構(Institute for the Physics and Mathematics of the Universe : 略称IPMU)

多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールがあることが知られています。それらは実に太陽の百万倍から十億倍といった重さですが、一体どのようにしてそこまで巨大に成長したのかは、いまだ謎のままです。東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)のジョン・シルバーマン博士は、国際チームCOSMOSとの協力で、チャンドラX線衛星と欧州南天天文台のVLT望遠鏡を用いた観測により、銀河同士の重力相互作用が超巨大ブラックホールの成長を促進させていることを明らかにしました。

この研究論文は米国のThe Astrophysical Journal誌に掲載が決まっています。

発表雑誌:米国雑誌 The Astrophysical Journal 号・巻は未定

論文タイトル:"The impact of galaxy interactions on Active Galactic Nucleus activity in zCOSMOS"

著者:J. Silverman, P. Kampczyk ほか54名 


本件に関するお問い合わせ先

研究内容(英語での対応)

  • John D. Silverman,

IPMU助教

tel: 04-7136-6550

e-mail: john.silverman◎ipmu.jp 

 

報道対応

  • 宮副英恵 Fusae Miyazoe,

IPMU広報

tel: 04-7136-5977

e-mail: press◎ipmu.jp


研究内容解説

 多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールがあることが知られています。それらの中には実に太陽の十億倍の重さのものもあります。一体、ブラックホールはどのようにして、そこまで巨大に成長したのでしょうか?この問題の答えはまだよくわかりません。しかしながら、いくつかの手がかりはつかめています。例えば、超巨大ブラックホールは非常に重い銀河に偏って存在していて、ブラックホール質量はその銀河の中心部(バルジと呼ばれる)の重さと関係していることがわかっています。その銀河のバルジは他の銀河との衝突合体を繰り返して成長すると考えられ、そのような衝突合体の過程で物質が銀河中心に流れ込み、超巨大ブラックホールを成長させたのではないかというアイディアが提案されています。

このアイディアを検証する簡単な方法として、超巨大ブラックホールが、孤立した銀河と比べて、合体途中にいる銀河により多く存在しているかを調べることが考えられます。これは簡単なことのように思われるかもしれませんが、この検証は天文学者を長い間悩ませてきました。他の銀河との重力相互作用は、銀河の形を歪めますが、活発に成長している超巨大ブラックホールから放たれる非常に明るい光のせいで、銀河自体を調べることが難しく、銀河の歪みが他の銀河との相互作用によるものなのかをはっきりさせにくいことがあるためです。

国際研究チームCOSMOSは、銀河の形が相互作用で歪んでいるか、といった情報を一切必要としない検証方法を試みました。銀河のすぐ近くに別の銀河があれば、それらの銀河同士が相互作用をしている可能性が高いと仮定し、実に2万個の銀河までの正確な距離を欧州南天天文台のVLT望遠鏡を用いて測り、銀河のすぐ近くにもう一つの銀河がいる、「銀河ペア」を探しました。それらの銀河を孤立した銀河と比べることで、成長している超巨大ブラックホールが、重力相互作用をしている銀河で多いか否かがわかるのです。活発な超巨大ブラックホールはNASAのチャンドラX線望遠鏡によるX線観測で見つけられます。ブラックホール周辺の物質は高温になり、かつ高速で運動しており、X線が放出されるためです。

ジョン・シルバーマン博士は、銀河ペアの方が、孤立した銀河と比べ、成長している超巨大ブラックホールをおよそ2倍の確率で持っていることを、アストロフィジカルジャーナル誌に発表しました。これは銀河同士の重力相互作用がブラックホールの成長を促進していることを示唆しています。さらに、このような相互作用の頻度を考慮に入れて解析すると、およそ20%のブラックホールの質量成長を相互作用が担っていることがわかりました。すなわち、重力相互作用以外の物理機構が大多数の超巨大ブラックホールの成長を牽引していることになります。この発見は、銀河と超巨大ブラックホールが同時に進化をしていく「共進化」のさらなる証拠をもたらしました。
しかしながら、今回の研究では銀河が最終的に合体する現場は観測できていません。その最後の瞬間を解明することが、今後の大きな課題になります。

COSMOSサーベイの二つの銀河ペアの例(チャンドラX線センター提供)。ハッブル宇宙望遠鏡で得られた画像にX線の強さを紫色で示しています。

*高解像度画像はこちらのURL


研究グループ

J. D. Silverman (IPMU), P. Kampczyk (ETH-Zurich), K. Jahnke (MPIA), R. Andrae (MPIA), S. Lilly (ETH-Zurich), M. Elvis (CfA), F. Civano (CfA), V. Mainieri (ESO), C. Vignali (INAF), G. Zamorani (INAF), P. Nair (INAF), O. Le Fevre (LAM), L. de Ravel (IfA-Edinburgh), S. Bardelli (INAF), A. Bongiorno (MPE), M. Bolzonella (INAF), M. Brusa (MPE), N. Cappelluti (INAF), A. Cappi (INAF), K. Caputi (IfA-Edinburgh), C. M. Carollo (ETH-Zurich), T. Contini (IRAP-Toulouse), G. Coppa (INAF), O. Cucciati (INAF) , S. de la Torre (LAM), P. Franzetti (INAF), B. Garilli (INAF), C. Halliday (INAF), G. Hasinger (IfA-Hawaii), A. Iovino (INAF), C. Knobel (ETH-Zurich), A. Koekemoer (STSCI), K. Kovac (MPA), F. Lamareille (LAM), J. -F. Le Borgne (IRAP-Toulouse), V. Le Brun (LAM), C. Maier (ETH-Zurich), M. Mignoli (INAF), R. Pello (IRAP-Toulouse), E. Perez Montero (IRAP-Toulouse), E. Ricciardelli (Padova), Y. Peng (ETH-Zurich), M. Scodeggio (INAF), M. Tanaka (IPMU), L. Tasca (LAM), L. Tresse (LAM), D. Vergani (INAF), E. Zucca (INAF), A. Comastri (INAF), A. Finoguenov (MPE), H. Fu (CalTech), R. Gilli (INAF), H. Hao (CfA), L. Ho (Carnegie), M. Salvato (MPE)


参考サイト

 


ポッドキャスト(英語のみ)