超広視野分光器Prime Focus Spectrograph(PFS)の概念設計を承認

2012年4月6日
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構

東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は2012年3月19日から20日にかけて米国ハワイ州ヒロの国立天文台ハワイ観測所において、SuMIReプロジェクト(Subaru Measurement of Images and Redshifts)の研究テーマの一つである超広視野分光器Prime Focus Spectrograph(PFS)の概念設計審査会を開催しました。
この審査会において内外の天文学者と技術専門家からなる委員の承認を経たPFS装置は基本設計、建設段階にすすむことになります。

SuMIReプロジェクトは宇宙の起源と未来を解き明かすことを目的としてKavli IPMUの村山斉機構長を中心研究者として進められているプロジェクトで、内閣府・総合科学技術会議が選定した最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)の一つに選定されています。
同プロジェクトでは既に、超広視野イメージング装置Hyper Supreme Cam(HSC)※注の開発が進んでおり、PFSが基本設計・建設段階にすすむことにより更なる研究の進展が期待できます。

今回の計画はPFSをハワイのマウナケア山頂にあるすばる望遠鏡(国立天文台)に設置することにより、暗黒エネルギーの性質、銀河の進化そして我々の銀河系やアンドロメダ銀河の謎の解明につなげることを目的としています。 今回、審査委員会は「PFSは大変興味深い装置であり、次の10年間につながる最先端の研究である。委員会として次の段階に進むことを推奨したい。」としてPFS装置の基本設計に入ることを承認しました。
また,審査委員会は「国際協同による幅広い技術力と、その技術詳細にわたるプレゼンテーションに感銘をうけた」と語っています。

国際研究チームには日本のKavli IPMUに加え、台湾の台湾中央研究院天文・天文物理研究所(ASIAA) 、米国のNASAジェット推進研究所(NASA JPL)、カリフォルニア工科大学(Caltech)、プリンストン大学、ジョンホプキンス大学(JHU)、フランスのマルセイユ宇宙物理研究所(LAM)、ブラジルのサンパウロ大学(USP)、ブラジル国立宇宙物理研究所(LNA)などが参加しています。

 

研究目的

PFSには3つの大きな目的があります。
まず一つ目は宇宙論、特に宇宙の加速膨張にかかわっていると言われる暗黒エネルギーの謎を解明する事です。
2011年のノーベル物理学賞の受賞理由となった宇宙の加速膨張の発見は、同時になぜ宇宙は加速しているのか、そしてどうなるかという新たな疑問の始まりでもあります。PFSは宇宙の加速の歴史を前例のない正確さで計測することにより、宇宙の将来を予測することを目指します。
第二の目的は銀河の誕生と進化についての謎を解明することです。ビッグバンによる火の玉状態が収まった後、宇宙の夜明けである最初の星の誕生までの間に、宇宙に“暗黒時代”があったことはよく知られています。
しかし原始ガスと最初の星から銀河やその中心にある巨大ブラックホールが形成されたしたしくみはいまだ解き明かされていません。
更に、銀河では活発な星の形成が数十億年前になぜか停止したのです。
PFSはそういった銀河の誕生からの歴史を途切れなく調査できるように設計されています。
最後の目的は我々の銀河系の歴史を理解することです。
来年欧州宇宙機関(ESA)が運用を開始するGAIA衛星とPFS装置を組み合わせることによって、数百万もの星の位置と動きを測定することができるようになります。
また数百光年の距離にあるアンドロメダ銀河についても同様の成果が期待できるのです。


装置について

提案されたPFSは2400本の光ファイバーを1分以内に10ミクロンの精度で数十億光年離れた銀河からの光を受けられるように移動するロボットファイバーポジショナー、近紫外線から近赤外線までカバーし、大きな赤方偏移をもつ銀河を測定できるようにする4つの精密分光器、マイクロレンズと光学ファイバー、駆動装置からなる複合的ハードウェア、およびシステム制御とデータ処理のソフトウェアからなります。
これらの装置の設計、建設作業は各国の協同研究機関により行われます。フランスのLAMが分光器光学系を、ASIAAはHSC画像から見い出される銀河に光学ファイバーの位置を定めるための度量衡システムを、またブラジルのUSPとLNAのチームは装置に使用するファイバーシステムを、そしてアメリカのJHUとプリンストン大学の協同チームは超広視野分光器のカメラ部分と低温容器を制作し、NASA JPLはこの数か月でロボットファイバーポジショナーの試作をすすめる予定です。
国際研究チームではPFSの詳細要件と基本設計を2012年末までにまとめるとともに、資材の調達と装置の建設を2012年下半期に開始する予定です。
またPFSのファーストライトは2017年に予定されています。

 

用語解説
HSC:Hyper Suprime-Cam (HSC ハイパー・スプリーム・カム)は国立天文台がKavli IPMUなど国内外の諸機関と共同で開発した、すばる望遠鏡用のデジ タルカメラです。重さが3トンもある巨大カメラで、光センサー部分は8億7000万の画素数を有する新開発の高感度CCDです。
一度に広い天域を撮影することができ、新しい天体や現象を探査する研究に力を発揮します。
特に期待されるのは暗黒物質や暗黒エネルギー研究への貢献です。これまでのカメラに比べて性能が飛躍的に上がるので、より遠方の宇宙、つまりより初期の宇宙、の観測が可能になります。また、遠方銀河の画像のゆがみで捉 える暗黒物質の分布図作成にも威力を発揮します。暗黒物質構造成長の歴史から暗黒エネルギーの正体を解明しようとするのです。
HSCは2012年中に稼働開始予定です。

本件に関するお問い合わせ先

報道対応:
大林由尚/土方智美(カブリIPMU広報担当)
  Email:  press _at_ ipmu.jp
 TEL: +81-4-7136-5974/5977

研究内容に関するお問い合わせ:
菅井 肇 (カブリIPMU特任准教授)
Email: hajime.sugai _at_ ipmu.jp

 

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