スローン・デジタル・スカイ・サーベイが最新観測データDR12を一般に公開

2015年1月28日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

 2015年1月、Kavli IPMUの研究者が参加しているスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS) 研究グループは最新データ「データリリース12(DR12)」をオンライン公開しました。このデータはSDSSの第3期(SDSS-III)の最終データです。一般公開され誰でも利用できるデータのサイズは100テラバイトを超えており、約5億個もの星や銀河の観測結果が含まれる、天文学の史上最大にして最も潤沢なデータベースの一つです。

図1:   SDSSデータを用いた宇宙のアニメーションの1シーン。この画像は天の川銀河を示しています。銀河の形は想像によるもので、小さな白い点はSDSSで得   られた数十万もの星々を一つ一つ示しています。図1: SDSSデータを用いた宇宙のアニメーションの1シーン。この画像は天の川銀河を示しています。銀河の形は想像によるもので、小さな白い点はSDSSで得 られた数十万もの星々を一つ一つ示しています。
Image credits: Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc. and Jonathan Bird (Vanderbilt University)
http://www.sdss.org/wp-content/uploads/2015/01/milkyway.jpg

SDSS-IIIの代表者であり、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのダニエル・アイゼンシュタイン教授は「SDSSの最大の特徴はバラエティに富んだ分野で革新的な研究成果が得られていることです」と述べています。SDSSは、これまでに近傍恒星の惑星の探策、天の川銀河の歴史の探査、宇宙の加速膨張の測定などを行ってきました。

SDSSは10年にわたる設計と建設の後、1998年に宇宙の地図作りを始めました。観測には米国ニューメキシコ州アパッチポイント天文台の口径2.5mスローン財団望遠鏡を用いています。SDSSの第3期観測プロジェクトSDSS-IIIには世界中の51機関から1000人もの研究者が参加し、2008年7月から2014年6月まで6年間の観測を行いました。

SDSS-IIIの観測では、2000夜の観測時間のほとんどを分光観測に充てています。分光観測とは、プリズムが光を虹色に分けるように、光ファイバー分光器で個々の星や銀河からの光を波長成分に分けて観測するものです。SDSS-IIIの共同研究を代表して観測所を運営するニューメキシコ州立大学のジョン・ホルツマン教授は「私たちの観測では、天体ごとに数千もの波長に分けて明るさを測定しています。そして、どんな原子や分子からの光なのかを観測データから見分けることができます。これらの観測から、星や銀河の動きや化学組成がわかるのです」と述べています。

さらに、SDSS-IIIの4つの観測プロジェクトの一つであるAPOGEE (Apache Point Observatory Galactic Evolution Experiment ; アパッチポイント天文台銀河進化観測実験) を率いるバージニア大学のスティーブ・マジェフスキー教授は「星の構成要素を調べることは星のDNAを読み出すようなもので、私たちはこれら星々のDNA測定値を用いて天の川の歴史を読み解こうとしています」と述べています。APOGEEはちりの雲にさえぎられずに見通すことのできる近赤外線波長で10万を超える星の観測を行い、天の川銀河全体の15種の元素や分子の分布を地図化しました。

DR12には、APOGEEで得られた元素の測定に加え、MARVELS (Multi-Object APO Radial Velocity Exoplanet Large-Area Survey:アパッチポイント天文台系外惑星広域多天体視線速度観測) の最初の公開データも含まれています。 MARVELSでは系外惑星により引き起こされる恒星の前後運動を検出するため、3000もの恒星について繰り返し観測を行ってきました。実験責任者であるフロリダ大学のジエン・グー教授は次のように説明しています。「MARVELSは多数の恒星の小さな動きを同時に観測する初めての大規模系外惑星探査です。これまで不可能だった方法で巨大系外惑星を全て探査し、性質を明らかにすることができるのです。」

図2:SDSSデータを用いた宇宙のアニメーションの1シーン。この画像はSDSSで得られる宇 宙の大規模構造のごく一部を表しています。銀河はSDSSデータから得られた正確な位置で示されていま す。図2:SDSSデータを用いた宇宙のアニメーションの1シーン。この画像はSDSSで得られる宇 宙の大規模構造のごく一部を表しています。銀河はSDSSデータから得られた正確な位置で示されていま す。
Image credits: Dana Berry / SkyWorks Digital, Inc.
http://www.sdss.org/wp-content/uploads/2015/01/manygalaxies.jpg

また、DR12はBOSS(Baryon Oscillation Spectroscopic Survey;バリオン音響振動分光サーベイ) による銀河や銀河間の水素ガスの分布から求めた宇宙構造の3次元地図も公表しています。BOSSの実験責任者であるローレンス・バークレイ国立研究所のデイビッド・シュリーゲル教授は「これらの地図を使って、私たちはビッグバン後の最初の50万年の間宇宙を満たしていた音波が刻み込まれたビッグバンの化石を探してきました。この化石はものすごく精密にその大きさがわかっていて、遠くの宇宙までの距離を測定するものさしとして使えるのです」と説明しています。

BOSSチームは音波の痕跡から、90億年にわたる宇宙膨張の変遷をこれまでにない精密さで明らかにしようとしています。シュリーゲル教授はさらに「今年の後半には、ダークエネルギーや宇宙の加速膨張に関する理論に対し、明確なテストのできる最終の解析結果が得られるでしょう」と述べています。

一方、SDSS-IIに始まりSDSS-IIIで完了したSEGUE (Sloan Extension for Galactic Understanding and Exploration:銀河理解と探査のためのスローン拡張観測) では天の川にある25万もの恒星について可視光スペクトルを観測しました。SDSS-IIIのSEGUEの研究を率いたカリフォルニア大サンタ・クルス校のカリフォルニア大学のコンスタンス・ロコシ教授は「多くの恒星のデータにより、銀河系外縁の構造に関する素晴らしい地図を得る事ができました。これにAPOGEEから得られる銀河系内部の詳細なデータを組み合わせる事で、我々は天の川の真の姿を手に入れようとしています」と述べています。

こうした様々な観測結果を含むDR12の全ての観測データは天文学者だけでなくすべての人々が利用可能です。これには、SDSSの歴史が大きく関わっています。ジョンズ・ホプキンス大学のアレックス・サレイ教授は「SDSS初期に我々がした最も重要な決定の一つは、誰もが使えるように観測データを社会に公表するというものでした」と言います。サレイ教授は、多くの天文学者や一般の人々がSDSSのデータにアクセスできるよう、強力なオンラインのインターフェースを開発してきました。サレイ教授は続けます。「現在、我々は至る所でビッグデータという言葉を耳にします。SDSSはその用語を人々が用いる何年も前にビッグデータ天文学を打ち立てていたのです。」

今回のDR12の公開について、Kavli IPMUの斎藤俊特任研究員は以下のように述べています。「DR12は、過去に類をみないほど豊富なデータ量です。例えばBOSSは、僕らの住む天の川銀河よりずっと明るい銀河をおよそ百万個も観測してきました。このような大量の数の銀河の3次元地図があるからこそ、我々は、銀河の集まり具合を詳細に解析することによって、アインシュタインの相対性理論が1億光年のスケールでも正しいかどうか調べたり、素粒子の1つであるニュートリノの質量を測定するような研究を精密に行うことができるのです。」

2014年6月に終了したSDSS-IIIの観測は、2014年7月に始まった観測プロジェクトSDSS-IVへ引き継がれ、宇宙論や近傍銀河、天の川銀河について研究する6年間のミッションが始まっています。SDSS-IIIの最後の観測データとなるDR12について、SDSS-III代表者のアイゼンシュタインは「DR12の公開というゴールを迎えたことは何百もの人々による大きな偉業です。しかし、広大な宇宙相手のことです。そこには観測すべきことがまだ山のようにあるのです」と述べています。

 

SDSS-IIIのプレスリリース原文はこちら

http://www.sdss.org/press/the-sloan-digital-sky-survey-opens-a-new-public-view-of-the-sky/

 

ABOUT THE SLOAN DIGITAL SKY SURVEY

Funding for SDSS-III has been provided by the Alfred P. Sloan Foundation, the Participating Institutions, the National Science Foundation, and the U.S. Department of Energy Office of Science. The SDSS-III web site is www.sdss3.org .

SDSS-IIIの資金はアルフレッド・P・スローン財団、研究参加機関、米国科学財団、米国エネルギー省から提供されています。



SDSS-IIIは以下の研究機関によって運営されています。

 SDSS-III is managed by the Astrophysical Research Consortium for the Participating Institutions of the SDSS-III Collaboration including the University of Arizona, the Brazilian Participation Group, Brookhaven National Laboratory, Carnegie Mellon University, University of Florida, the French Participation Group, the German Participation Group, Harvard University, the Instituto de Astrofisica de Canarias, the Michigan State/Notre Dame/JINA Participation Group, Johns Hopkins University, Lawrence Berkeley National Laboratory, Max Planck Institute for Astrophysics, Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, New Mexico State University, New York University, The Ohio State University, Pennsylvania State University, University of Portsmouth, Princeton University, the Spanish Participation Group, University of Tokyo, University of Utah, Vanderbilt University, University of Virginia, University of Washington, and Yale University.