超広視野主焦点カメラ HSC の初期成果がまとまる

2018年2月27日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

国立天文台、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)、台湾中央研究院天文及天文物理研究所 (ASIAA)、米国プリンストン大学をはじめとする研究機関の研究者らは、2014年からハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) を用いて、大規模観測を共同で進めています。

この大規模観測はHSC戦略枠観測プログラム (HSC-SSP) と呼ばれ、満月9個分の天域を一度に撮影できる HSC の性能を生かし、従来のカメラでは観測が不可能だった暗い天体を、1000 平方度 (満月 5000 個分) もの広い天域にわたって高解像度で撮影するものです。この HSC による観測データから、ダークマターの大局的な分布をこれまでにない精度で描き出し、加速膨張宇宙の謎に迫ろうとしています。この大規模な探査観測は、2019年末まで続く予定です。
 

この度、最初の2年間の観測にもとづくHSCの初期成果がまとめられ、日本天文学会欧文報告 (PASJ) の特集号として発刊されました (図1)。HSC で観測取得されたデータは、多くの研究分野で有用なものであり、特集号の 40 本の論文の研究テーマは、太陽系天体の探査から銀河、活動銀河核、銀河団、宇宙論まで、宇宙の全ての階層にわたっています。
 

例えば、今回の成果の1つに、東京大学理学系研究科助教で Kavli IPMU 准科学研究員の大栗真宗氏が中心研究者の一人として関わった、史上最高の広さと解像度を持つダークマターの「地図」を描き出した成果があります。まず、2016年4月までに HSC で観測されたデータ (計画全体の約 11%, 注1) を解析し、重力レンズ解析からダークマターの2次元分布を推定しました。

観測された全天域は5色のフィルターで撮影されています。これらの多色画像を比較すると各銀河の色情報が得られ、銀河までの距離を推定することができます。一方で重力レンズ効果による天体像の歪みは、レンズの役割を果たすダークマターが光である銀河までの距離のちょうど中間にあるときに最大になります。研究チームはこれを利用して銀河の距離ごとに解析を行うことで、まるで断層写真を撮影するようにダークマターの3次元分布を得ることにも成功しました (図2)。
 

図2は、約 10 億光年 × 2.5 億光年の範囲、80 億光年ほどの奥行きについてダークマターの分布を示した例です。これほど広い天域でダークマターの3次元分布が得られた例はありません。この3次元地図を作成するためには、背景にある遠方の銀河の観測が必要でしたが、すばる望遠鏡の大集光力がそれを可能にしました。
 

この研究成果に関して、大栗真宗氏は、「3次元ダークマター分布の作成においては非常に多数の遠方銀河の形状を精確に測定することが必要不可欠なため、これまではごく狭い天域での作成に限られていました。しかし、HSCの高い集光力と結像性能のおかげでとても広い天域に渡って必要な観測データを取得することができました。あらためてHSCの威力を実感しています」と述べています。
 

今後、HSC-SSPで得られる更に広い範囲のデータを解析し、3次元のダークマター分布を調べることで、宇宙の構造形成の時間的進化やダークエネルギーの量の関わりなど、宇宙の運命のカギを握る重要な情報が得られると期待出来ます。
 

本研究成果詳細については国立天文台ハワイ観測所のプレスリリースをご覧下さい。


今回、HSCの初期成果がまとまったことに対して、HSC-SSP サイエンスワーキンググループのリーダーを務める Kavli IPMU の高田昌広教授は、「大口径・広視野のすばるHSCのデータを用いることにより、圧倒的なスピードで巨大な宇宙の地図を作ることができます。この地図から、暗い、稀な天体・現象を多数発見することが可能になります。今回のHSC宇宙地図プロジェクトの初期データから、太陽系外縁天体、近傍宇宙の暗い小さな銀河、約80億年前の銀河団、また130億年前の銀河やクェーサーを多数発見することができました。さらに、最先端のデータ解析法から銀河の形状を精密に数値化し、そのデータから重力レンズ効果を測定することができ、ダークマターの地図も作ることができました。これまで200名を超える研究者が関わり、チームの力で多くの成果を出すことができました。さらにエキサイティングな結果を出せるよう、チーム全員で頑張っているところです」と述べています。


さらに、Kavli IPMU の村山斉機構長も「世界一深くかつ広く観測できるすばるの特徴を生かして、宇宙の成り立ちと運命を探る『宇宙の国勢調査』を行うのがこの計画です。今までの日本の宇宙研究にはないタイプの研究なだけでなく、世界中で注目されているプロジェクトです。Kavli IPMUは特殊なレンズ設計・製作、機械制御系など、装置の約半分を貢献しました。今回の成果だけでも世界に誇れるものですが、今後データが6倍に増えるので、驚きの発見が期待できます。更にHSCのデータを基に分光観測を行うPFS計画も推進中で、今後20年はすばるが世界の先頭を走り続けます」と述べています。
 

注1) 本稿公開時では「16%」と記載していましたが、さらなる確認を行ったところ、正しくは「11%」であることが判明したため、訂正しました。
 

関連リンク
日本天文学会欧文報告のHSC特集号 (英語)
https://academic.oup.com/pasj/issue/70/SP1

超広視野主焦点カメラ HSC の初期成果がまとまる (国立天文台ハワイ観測所のページ)
https://www.subarutelescope.org/Topics/2018/02/26/j_index.html

かつてない広さと解像度のダークマター地図 (国立天文台ハワイ観測所のページ)
https://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2018/02/26/j_index.html