SuperKEKB 加速器で電子・陽電子の初衝突を観測 -Belle II 測定器による実験がスタート

2018年4月26日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)


【概 要】
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) も参加する Belle II 実験で用いられる、高エネルギー加速器研究機構 (KEK) の SuperKEKB (スーパーケックビー) 加速器 (※1)  において2018年4月26日午前0時38分に初めての電子・陽電子の衝突が観測されました。

SuperKEKB 加速器は、小林誠・益川敏英両博士のノーベル物理学賞受賞に結びつく成果を残した KEKB 加速器 (1999年から2010年まで運転) を大幅に改良したものです。 衝突点にありBelle 測定器から高度化された Belle II 測定器の中心部で、電子と陽電子を衝突させ、対生成される B 中間子・反 B 中間子、D 中間子・反 D 中間子、τ+・τ- などの崩壊を、KEKB/Belle 時代の50倍 (B中間子対500億事象に相当) も生み出し、その様子を詳しく分析することを計画しています。

SuperKEKB 加速器は2016年2月から約5ヶ月間、衝突なしでビームを調整し、Belle II 測定器を導入可能な環境に整えるためのフェーズ1運転を行った後、2017年春にはBelle II 測定器を衝突点にロールイン。秋から冬にかけて、ビーム衝突点用超伝導電磁石(QCS)を両側から挿入して合体させるとともに、陽電子ビームの広がりを小さくするためのダンピングリングの立ち上げ調整などを行い、今年3月19日からフェーズ2運転をスタートさせました。その後、3月21日に電子リング、3月31日に陽電子リングへのビーム蓄積 (定常的にビームがメインリングを周回する状態) を達成し、両方のビームを安定させながら衝突点で絞り込み、電子ビームと陽電子ビームのタイミングと軸を合わせる調整を、数週間かけて慎重に進めて来ました。

SuperKEKB 加速器の準備が整ったことを受け、Belle II 実験グループは25日午後10時過ぎ、Belle II 測定器の中央飛跡検出器 (CDC) をはじめとする検出器群の電圧を上昇させて観測を開始。初めのうちは電子・陽電子がビームガスに当たって起きるイベントが多く、反応の様子を表示するコンピュータ画像「イベントディスプレイ」で初衝突を確認できませんでしたが、2時間半後の26日午前0時38分、多数の粒子が飛び散る反応が確認され、「ハドロン事象 (※2, 図1) が起きたと見られる」と判断しました。これと前後し、電子、陽電子が衝突点でぶつかり、ほぼ反対方向に飛び散る Bhabha 散乱 (※2) と見られる反応も観測されました。

SuperKEKB プロジェクトは、KEK がホストし、25カ国・地域の研究者750人以上で組織するBelle II 実験グループで運営されています。実験グループは今後、今年7月までフェーズ2運転を継続し、SuperKEKB 加速器の調整とBelle II 測定器 (図2) でのデータ収集を続ける予定です。 また、夏から秋にかけ、Belle II 測定器の中心部に搭載中のビームバックグラウンド測定装置 (BEAST) から、本番用の崩壊点位置検出器 (VXD)  への交換作業などを行い、2019年2月から予定されているフェーズ3運転 (本番の物理ラン) に備える計画です。


【今後の予定】
現在のフェーズ2運転は今年7月まで継続され、Belle II 測定器で初めてのデータ収集が行われます。その間も電子・陽電子両ビームの調整は続けられ、順調に進めばフェーズ2運転中にも KEKB 加速器の時代に記録したルミノシティの世界記録 (2.1 × 1034 cm-2s-1)  に迫る可能性があります。また、Belle II 測定器の中心部には、本番用の VXD (崩壊点位置検出器) の代わりに、検出器の一部とビームバックグラウンドなどを測定する BEAST が設置されており、これを本番用の VXD(崩壊点位置検出器)に交換する作業も残されています。 このVXDには、Kavli IPMU も製作を担当してきた、SVD 検出器 (シリコンバーテックス検出器, 図2参照) も含まれます。 これらが終了すると、いよいよフェーズ3運転 (物理ラン) が始まる予定です。 

詳細は高エネルギー加速器研究機構 (KEK) のプレスリリースを御覧下さい。


【用語解説】

※1. SuperKEKB 加速器
KEK つくばキャンパス内の地下トンネルに設置された電子、陽電子ビームの衝突型加速器。各リングの周長約3キロメートル、深さ地下約11メートル。衝突ビームの重心系エネルギーは10.58 GeV (電子ビームのエネルギーは7 GeV、陽電子ビームは4 GeV。1 GeVは10億電子ボルト)。ビーム電流は、陽電子ビームが1.8 A から3.6 A、電子ビームは1.4 A から2.6 A と、それぞれ KEKB 加速器時代の約2倍を目指している。

※2.Bhabha 散乱とハドロン事象
Bhabha 散乱・・・電子と陽電子が衝突して起きる散乱のことで、インド人の物理学者、ホーミ・J・バーバー (Homi Jehangir Bhabha) に因んで名前が付けられた。電子と陽電子が対消滅して仮想光子を放出する場合と、電子と陽電子が対消滅せずに仮想光子を交換する場合の2通りの場合がある。 

ハドロン事象・・・衝突により、ハドロンが生成・崩壊する事象を指す。ハドロンとは「強い相互作用で結合した複合粒子」という意味で、原子核を構成する陽子・中性子のようにクォーク3個から構成されるバリオンや、湯川秀樹博士の中間子論で知られる π 中間子のようにクォーク2個から構成されるメソンなどがある。B 中間子の対生成事象もハドロン事象の一種である。

 

関連リンク

2018年4月26日
SuperKEKB加速器で電子・陽電子の初衝突を観測 (高エネルギー加速器研究機構のページ)
https://www.kek.jp/ja/newsroom/2018/04/26/0700/

2018年3月22日
「SuperKEKBプロジェクト」加速器が本格稼働しました (高エネルギー加速器研究機構のページ)
https://www.kek.jp/ja/newsroom/2018/03/22/0900/

Belle II コラボレーションのページ (英語)
https://www.belle2.org