CMB 偏光観測衛星 LiteBIRD がミッション実現に向けて前進へ

2025年12月1日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)
 

2025年9月、JAXA 宇宙科学研究所にて進捗確認(Key Decision Point#2 = KDP2)が行われ、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)が参加する宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) 偏光観測衛星 LiteBIRD (ライトバード) 計画の前進が認められました。LiteBIRD チームは、科学的意義を低減せずに、より実現しやすいミッションの形を探る活動を約1年かけて進めてきました。今後はミッション定義審査を経てフェーズA (衛星実現に向けたより具体的な検討や評価が行われる段階) を目指し、国際チームが一丸となってさらに検討を加速していきます。

LiteBIRD 衛星の想像図 (Credit: JAXA)

LiteBIRDは、「宇宙はどのように始まったのか」という謎を明らかにするためのミッションです。今までの数ある宇宙観測によってビッグバン宇宙論は確立されましたが、ビッグバンのさらにその前に何があったのかは、まだ分かっていません。現在考えられている仮説の最有力候補が、佐藤勝彦氏らが提唱するインフレーション宇宙論です。この仮説を検証し、その詳細を明らかにすることが、LiteBIRD の使命です。

ビッグバン宇宙論の確立に大きな役割を果たしたのが、宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) です。これは、ビッグバンの際に出た光そのもので、どの方向でも同じ明るさで観測することができます。その微かな濃淡を使い、当時の宇宙の様子を現在では精密に調べることが可能になりました。では、さらに昔の宇宙の様子についてはどうでしょうか? CMB が発せられる前の宇宙はプラズマ状態になっていたため、「光」そのものの観測では直接見通すことができません。インフレーション宇宙論によれば、宇宙誕生直後の急激な大膨張であるインフレーションの際に時空が振動することで原始重力波が生じたと考えられています。LiteBIRD では、原始重力波が CMB の偏光パターンに痕跡として刻むとされる特殊な渦状の偏光(原始重力波Bモード)を探します。これにより、インフレーション宇宙論を検証します。また、宇宙論だけに留まらず、全天精密偏光観測により宇宙最初にできた星々 (宇宙再電離)、宇宙の重力源の地図(重力レンズ)、宇宙のプラズマの地図、また我々の住む銀河系内からの偏光放射など精密観測、広い科学成果が期待できます。

LiteBIRD計画は、広視野のミリ波偏光望遠鏡を搭載し、3年間観測を行います。約4000個の超伝導検出器を用いて、また熱雑音源となる望遠鏡内壁を5 K (ケルビン) まで冷却することで、高感度観測を実現します。加えて、12の周波数帯域で観測を行うことにより、CMB と我々が住む銀河系からの偏光放射を区別します。


LiteBIRD グループでは役割の再編があり、JAXA宇宙科学研究所 LiteBIRDチームの再定義と並行して2025年10月に Kavli IPMU の松村知岳准教授が責任研究者(Principal Investigator, PI)、石野宏和客員上級科学研究員(岡山大学教授)が副責任研究員(Deputy Principal Investigator, deputy PI)に就任しました。Kavli IPMU のデータ駆動型探究センター (CD3)のセンター長でもある Jia Liu 准教授は科学解析に向けた準備チーム(Science Ground Segment Taskforce)の副議長(co-chair)として将来の科学解析に向けた体制作りを牽引しています。また、要求解析や系統誤差の評価には、Guillaume Patanchon パリシテ大学准教授(Kavli IPMU連携研究員/ILANCE)、Clement Leloup 特任研究員 (現 CNES博士研究員)、Marta Monelli 特任研究員, Guillermo Pascual Cisneros 特任研究員が活躍しています。偏光変調器の実現性検討では、 Kavli IPMU で研究を行う東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 の大学院生(相澤耕介、秋澤涼介、井澤拓海、岩垣大成)も開発成果にて貢献しています。さらに、検出器の実現性やアルゴリズムの開発では、Tommaso Ghigna 客員准科学研究員 (KEK特任助教) や茅根裕司客員科学研究員 (KEK特任准教授)が限られた制約のなか連続性を堅持して貢献してきました。

本ミッションは、JAXA 主導の下、フランス、イタリア等の欧州各国、カナダの宇宙開発機関・研究機関と共に、検討が進められており、国内では岡山大学等と共に2030年代の打ち上げを目指し開発が進められています。Kavli IPMU では、引き続き科学成果の創出に向けて国際ハブとなり、これまで積み上げてきた観測装置の開発や、CD3と共同してシミュレーション・データ解析センターの実現に向けて邁進していきます。

東京大学柏キャンパス内のカフェテリアにて2025年1月に撮影。LiteBIRD コラボレーションミーティングの集合写真(Credit:LiteBIRD)