極めて軽い質量のダークマターの探索にねじり天秤が応用可能

2026年4月13日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)

 

1.発表概要
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI) の 松本重貴 (まつもと しげき) 教授と Jie Sheng (ジエ シェン) 東京大学特別研究員が参加する研究グループは、これまで等価原理検証実験に用いられてきた非対称構造のねじり天秤が、ニュートリノ質量に近い sub-eV (サブ電子ボルト) 領域おける極めて軽い質量のダークマターの直接探索に極めて有効な手法となることを理論的に示しました。

極めて軽い質量のダークマターは、ダークマターと通常の物質 (原子核) との相互作用による散乱信号が極めて弱いため、従来の地下実験によるダークマター探索実験では直接検出が困難とされてきました。しかし今回の研究グループの成果を踏まえ、ねじり天秤の実験感度の検証と設計がさらに向上していけば、ねじり天秤実験が軽い質量のダークマター探索の新たな手法となることが期待されます。

成果は、米国物理学会の発行する米国物理学専門誌 フィジカル・レビュー・レターズ (Physical Review Letters) のオンライン版に、2026年3月26日付で掲載されました。
 

図1. 今回研究グループが理論的に実証したダークマター探索の模式図。ねじり天秤は向かって左側は中身が中空の「球殻」で、向かって右側は中身が詰まった「実球」という幾何学的に非対称な構造。ねじり天秤に対する極めて軽いダークマターの散乱は、個々の散乱による影響こそ微小であるものの、多数のダークマターが頻繁に散乱することで、全体として測定可能な加速度を生じさせる。(Credit:Kavli IPMU)


2. 発表内容
ダークマターは、宇宙の物質の大部分を占めると考えられていますが、その性質は依然として謎であり研究が進められています。そして、これまでダークマター探索実験の多くは、有力候補の一つとされる WIMP を中心とした重い質量のダークマター候補に焦点を当てて行われてきました。ですが、未だにダークマターの直接検出の端緒はつかめていないことから、近年では、より幅広い質量範囲でダークマター探索を行おうとする動きが盛んになっています。しかしながら、ニュートリノ質量に近い sub-eV (サブ電子ボルト) 領域の極めて軽い質量のダークマターについては、既存のダークマター探索実験で用いられているようなターゲットとなる原子核と相互作用した際の散乱信号が極めて弱く、直接検出は特に困難とされています。

今回、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI) の 松本重貴 (まつもと しげき) 教授と Jie Sheng (ジエ シェン) 東京大学特別研究員/JSPS フェローらの研究グループは、ある重要な物理効果に注目しました。これは、ダークマターの質量が十分軽い場合には、銀河内での数密度が非常に高くなり、巨視的な物体との散乱弾面積もコヒーレント効果によって大幅に増大し得るという点です。それにより、実験装置内のターゲットに対するダークマター散乱は、個々の散乱による影響こそ微小であるものの、多数のダークマターが頻繁に散乱することで、全体として測定可能な加速度を生じさせることを明らかにしました。

さらに研究グループは、慣性質量と重力質量が区別できないという等価原理検証に用いられてきた幾何学的に非対称な構造の「ねじり天秤」が、このような極めて軽いダークマターによる加速度に対して特に感度が高いことを示しました。いくつかの最先端のねじり天秤実験を体系的に分析し、もとは等価原理検証のために構築されたねじり天秤が、質量範囲約0.01~1eV の軽いダークマターと原子核との相互作用の強さに、現在最も強い制限を与え得ることを理論的に明らかにしたのです。

本研究結果は、実験室で行うような精密測定実験がダークマター直接探索においても新たな役割を果たし得ることを示しています。特に、従来の地下実験によるダークマター探索実験では感度が限られている低質量の領域において、ねじり天秤による実験は、軽いダークマターを検出するための新しく補完的なアプローチを提供できます。今後、ねじり天秤の実験感度と設計がさらに向上すれば、この手法はダークマターの質量および結合定数の測定可能範囲をさらに広げ、精密実験と素粒子宇宙論との結びつきを更に強める可能性があります。
 

図2. 既存の等価原理検証実験から得られるダークマターと核子断面積に対する制限 (色付きの実線)。黒色の破線は、本論文で検討した近い将来における非対称回転ねじり天秤実験で想定される感度を示す。 (Credit:Matsumoto et al.)


3. 発表雑誌
雑誌名:Physical Review Letters
論文タイトル:Torsion Balance Experiments Enable Direct Detection of Sub-eV Dark Matter
著者:Shigeki Matsumoto (1), Jie Sheng (1, 2), Chuan-Yang Xing (3), and Lin Zhu (4)
著者所属:
1 Kavli IPMU (WPI), UTIAS, University of Tokyo, Kashiwa, 277-8583, Japan
2 Tsung-Dao Lee Institute, Shanghai Jiao Tong University, 201210, China
3 College of Science, China University of Petroleum (East China), Qingdao 266580, China
4 National Gravitation Laboratory, MOE Key Laboratory of Fundamental Physical Quantities Measurement & Hubei Key Laboratory of Gravitation and Quantum Physics, School of Physics, Huazhong University of Science and Technology, Wuhan 430074, People’s Republic of China

DOI : https://doi.org/10.1103/8lbh-lblh (2026年3月26日掲載)
論文のアブストラクト (Physical Review Letters のページ)
プレプリント (arXiv.org のページ)
 

4. 問い合わせ
松本 重貴 (まつもと しげき)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授 
E-mail:shigeki.matsumoto_at_ipmu.jp
*_at_を@に変更してください

(報道に関する連絡先)
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 広報担当 小森
E-mail:press_at_ipmu.jp
Tel:04-7136-5977
*_at_を@に変更してください 


関連リンク
Detecting meV-scale dark matter via coherent scattering with an asymmetric torsion balance” (Physical Review D, 2025年10月14日掲載)