大栗真宗 客員上級科学研究員が2024年日本学士院賞を受賞

2024年3月15日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)

 

Kavli IPMU 客員上級科学研究員の大栗真宗氏 
(撮影:大野真人 / Kavli IPMUものしり新聞第7号より)

千葉大学先進科学センター教授で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU, WPI)客員上級科学研究員の大栗真宗 (おおぐりまさむね) 氏が2024年の日本学士院賞受賞者の一人に選ばれました。

日本学士院賞は、帝国学士院賞を前身とする1910年に創設された歴史ある授賞制度で、学術上特にすぐれた論文、著書その他の研究業績をあげた研究者へ授与されてきました。Kavli IPMU シニアフェローを兼ねる東京大学宇宙線研究所教授で2015年ノーベル物理学賞受賞者である梶田隆章氏も2012年の学士院賞を受賞しています。

今回の受賞理由は「重力レンズ効果を用いた宇宙論研究の開拓推進」です。ハワイ島のマウナケア山頂 (標高4,200 m) のすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam  (HSC) を開発し、宇宙のダークマター分布図研究の道筋を拓いた宮崎聡 (みやざき さとし) 国立天文台ハワイ観測所所長との共同受賞となりました。大栗真宗氏は、HSC から得た大規模観測データを解析し、遠方銀河が手前の重力源により像が僅かに歪められる「弱重力レンズ」の効果を利用してダークマターの3次元分布図を作成。ダークマターの数十億年スケールでの時間変化を読み解くことで、そこから予想される宇宙膨張のモデルが宇宙標準理論とされる宇宙マイクロ波背景放射の分析結果と一致しない可能性を指摘しました。また、大栗氏は重力レンズ効果を用いた研究の専門家として、弱重力レンズのみならず強い重力レンズ効果を用いてハッブル宇宙望遠鏡のデータ等からも多くの成果をあげています。例えば、重力レンズ効果による増光現象を用いることで遠方銀河にある単独の星の観測に成功したほか、遠方の超新星爆発が重力レンズ効果で時間遅延のある複数像として発現する現象を予言し、実際にその像を捉えて解析することで超新星爆発の明るさの時間変化を捉えることに成功するなどしています。こうした数々の研究成果が、ダークマター研究において世界の追随を許さない新しい拡がりをもたらしたとして評価され、宮崎氏との共同受賞に繋がりました。

大栗氏は、2011年から2013年まで特任助教、2013年から2022年まで准科学研究員として Kavli IPMU に在籍しており、現在は客員上級科学研究員として所属しています。今でもKavli IPMU の研究者と共同研究を行うなど密接な関わりを持ってきました。


日本学士院賞に選出されたことについて 大栗氏は次のように述べています。
「日本学士院賞を受賞することになり、大変光栄です。評価の対象となった私のこれまでの重力レンズの研究は、Kavli IPMU教授の高田昌広さんをはじめとするKavli IPMUの方々との共同研究も多く含まれており、最近の主な研究成果の一つである超新星重力レンズの研究も、Kavli IPMUに特任助教として在籍していた時期の研究が一つの重要な契機となってそれが発展して得られたものです。今後も面白い研究成果を得られるように頑張っていきたいと思います。」
 

関連リンク
日本学士院賞授賞の決定について
宮﨑聡教授が日本学士院賞を受賞 (国立天文台の記事)
大栗 真宗 教授・清野 宏 卓越教授が日本学士院賞の受賞者に決定しました (千葉大学の記事)
 

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