観測ロケット実験 FOXSI-3 で取得した世界初の太陽コロナ観測データの公開

2019年1月15日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)
 

米国・ホワイトサンズに於いて2018年9月7日(現地時間)に打ち上げられた観測ロケット FOXSI-3 が、太陽からの軟X線を新たな手法で観測しました。光の粒1個1個のエネルギー、到達時刻、太陽のどの場所から放射されたかを記録しました。このデータを基にした研究により、太陽コロナについて新たな知見が得られると大いに期待されます。

太陽コロナは、100万度以上の高温プラズマで満たされ、様々なエネルギー解放現象が起こる非常にダイナミックな世界です。その最たるものが太陽フレア(太陽系最大の爆発現象)で、フレアが起きれば、周辺の温度は数千万度にまで達し、粒子は光速近くまで加速されます。また、フレアによって放出されたプラズマは、時に地球環境に影響を与えます。この様に、太陽コロナの研究は、太陽物理やプラズマ物理という基礎学問としてだけでなく、地球環境への影響を調査するという点でも極めて重要です。

さて、この様な太陽コロナの物理を理解するために、1980年代から気球や観測ロケット、人工衛星を用い、太陽から放たれるX線の観測が行われてきました。X線で観測する理由は、コロナを満たす100万度~数千万度のプラズマがX線を放射しているからです。ただ、X線の観測は容易ではありません。X線は地球の大気によって吸収されてしまうため宇宙空間からの観測が必要な上、X線の観測には通常の鏡やレンズを使うことが出来ないためです。この様な厳しい条件の中、様々な観測装置が発明され、継続して観測が行われてきました。しかし、まだ理想の観測には程遠い状況です。

では、理想のコロナ観測とは何でしょうか?それは、プラズマの状態を反映して放たれるX線を詳細に計測することです。具体的には、場所によって明るさがまちまちであるX線の空間分布を調査し、それらが時間によって変化する様子を追跡し、どの様なエネルギーのX線がどの程度放たれているかを分析することです。つまり理想の観測とは、「明るい場所も暗い場所もくっきりと見えること(高いコントラストの達成)」と「空間分解能」、「時間分解能」、「エネルギー分解能」の4つの要件を同時に満たす観測です。しかし、既存の観測手法では、これらを同時に達成することは出来ませんでした。そこで東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) は、国立天文台、名古屋大学、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 宇宙科学研究所の研究者らと共同で、軟X線用の高速度カメラを開発。日米共同・太陽観測ロケット実験 FOXSI-3 に搭載し、前述した4つの要件を満たす観測を世界で初めて実現させ、今回データを公開しました。

軟X線用の高速度カメラの CMOS センサーのデータ処理装置は、Kavli IPMU の高橋忠幸主任研究者の研究室を中心に開発されたものであるほか、今回の実験にあたっては、高橋研究室修士課程2年の古川健人さんが現地で活躍しました。

現在、データを使った解析が行われています。詳しくは、国立天文台 SOLAR-C 準備室の記事 をご覧下さい。

下記の動画は、FOXSI-3の打ち上げから回収までの様子↓

関連リンク

2019年1月15日 
観測ロケット実験FOXSI-3で取得した世界初の太陽コロナ観測データの公開 (国立天文台 SOLAR-C 準備室のページ)
https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3-data-release-jp-20190115/

2018年9月11日
観測ロケット実験FOXSI-3打ち上げ・観測成功!! (国立天文台 SOLAR-C 準備室のページ)
https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3/

高橋忠幸研究室ウェブページ
https://member.ipmu.jp/takahashi_lab_UT/

Kavli IPMU の FOXSI 紹介ページ (Kavli IPMUのリサーチプロジェクトページ)
https://www.ipmu.jp/ja/research-activities/research-program/FOXSI

NASA の FOXSI-3紹介ページ (英語)
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2018/nasa-funded-rocket-to-view-sun-with-x-ray-vision

ミネソタ大学の FOXSI のウェブサイト (英語)
http://foxsi.umn.edu