日影千秋特任准教授らが2020年度の日本天文学会欧文報告論文賞を受賞

2021年3月3日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)

 

2021年2月3日、 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の日影千秋 (ひかげ ちあき) 特任准教授を筆頭著者とする国際研究チームの論文に対して2020年度の欧文報告論文賞を授与することが日本天文学会から発表されました。

日本天文学会欧文報告論文賞は、日本天文学会欧文研究報告 (Publications of the Astronomical Society of Japan; PASJ) に過去5年以内に掲載された論文のうち独創的で天文分野に寄与の大きい特に優れた論文のすべての著者に贈られており、東京大学、国立天文台、名古屋大学、米国プリンストン大学、米国カーネギーメロン大学、台湾中央研究院天文及天文物理研究所 (ASIAA) の研究者らからなる国際研究チームが2019年に発表した論文「Cosmology from cosmic shear power spectra with Subaru Hyper Suprime-Cam first-year data」が受賞論文となりました。
 

研究グループは本論文において、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) を使って観測した約1000万個の遠方銀河の形状を調べ、宇宙大規模構造による弱い重力レンズ効果を測定しました。重力レンズ効果は光では直接観測できないダークマターやその空間分布を観測する強力な手段であり、今回の測定から宇宙のダークマターの総量および宇宙のゆらぎの振幅を高精度で推定することに成功しています。この論文の結果は、他の欧米の宇宙観測の結果とは良い一致を示す一方、欧州宇宙機関 (ESA) の Planck 衛星が示唆する値とは 2σ(シグマ) 程度のズレを示唆しており、宇宙標準模型を超える新しい物理の可能性を含めて、議論を巻き起こしています。すばる望遠鏡と HSC の併せ持つ大口径・広視野・高い結像性能といった強みを最大限活用して観測的宇宙論研究に新たな展開をもたらした研究であり、その波及効果が今後も見込まれるとして評価され、今回の受賞に繋がりました。

 

授賞式は、2021年3月16日から3月19日にオンライン開催となる日本天文学2021年春季年会会期中の年次総会で行われ、3月19日に受賞講演が予定されています。

今回の受賞について日影千秋特任准教授は以下のように述べています。
「すばる HSC による宇宙論の成果が今回の受賞につながり大変嬉しく思います。本研究は HSC チームの多大な労力によって成し得たものであり、関係者の皆様に深く感謝致します。今回の成果は HSC の初期データに基づくものであり、今後さらにデータを積み上げることでダークマターやダークエネルギーの謎の解明に迫れるものと考えます。今回の受賞を励みにさらに研究を進めてまいります。」


 

関連リンク:
2020年度日本天文学会欧文研究報告論文賞について (日本天文学会ホームページ)

欧文研究報告論文賞受賞者リスト (日本天文学会ホームページ)

論文「Cosmology from cosmic shear power spectra with Subaru Hyper Suprime-Cam first-year data」 (欧文研究報告のページ)

2020 年度日本天文学会各賞について (2月3日掲載, 日本天文学会ホームページ)
 

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