小松 英一郎 主任研究者が第38回(2021年度)井上学術賞を受賞

2021年12月13日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)
 

ドイツのマックス・プランク宇宙物理学研究所所長でもある東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の小松英一郎 (こまつ えいいちろう) 主任研究者が第38回(2021年度)井上学術賞の受賞者の一人に選ばれました。

井上学術賞は、自然科学の基礎的研究の振興を図る目的で1984年に発足した井上科学振興財団による研究者の顕彰及び研究助成事業の一つです。自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対し贈られ、翌年2月に授賞式が行われます。今回の第38回(2021年度)井上学術賞の授賞式は、2022年2月4日に実施予定です。

小松氏は、宇宙の始まりから現在そして未来を探るため、天文観測データと物理法則を組み合わせて研究を行う観測的宇宙論の分野で多大な貢献を果たしてきました。今回は「宇宙マイクロ波背景放射を用いた初期宇宙理論の検証」が評価され、受賞につながりました。宇宙初期には、インフレーションと呼ばれる急激な加速膨張が起きたと理論的に予言されています。小松氏は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) の WMAP 衛星のチームに2001年から参加し、宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) の観測データを用いたインフレーション理論の検証を行いました。その結果、CMB のわずかな温度のゆらぎが、インフレーションを引き起こす場に生じた「量子ゆらぎ」と強く相関していることを観測データから明らかにしました。これはつまり、宇宙初期の量子ゆらぎが、CMB の温度ゆらぎを生じさせ、ひいては宇宙の大規模構造の形成にも影響を与えていることを示しており、インフレーション理論を強く支持する結果となりました。さらに小松氏は、インフレーション理論検証のもう一つの鍵となる原始重力波の研究にも多大な貢献を果たしています。原始重力波は、インフレーションの際に時空が振動することで生じた重力波であり、CMB に特殊な偏光パターンを生じさせ痕跡を残しているとされます。しかし小松氏は、原始重力波の振幅は当初予想よりも小さいことを明らかにしました。小松氏の研究は、 Kavli IPMU も参加する LiteBIRD (ライトバード) 衛星計画をはじめとした CMB 観測からインフレーション理論の検証を行おうとする次世代衛星計画の策定にも影響を与えています。

今回の受賞について小松氏は以下のように述べています。
「本賞の受賞者の一人に選んでいただけたことを、とても光栄に感じるとともに恐縮しています。推薦してくださった先生方、選考に関係された先生方、また、これまでご指導いただいた先生方に感謝いたします。40年前に提唱された宇宙初期のインフレーション理論を観測的に立証したい一心で研究してきて、ようやくあと一歩のところまで来ました。インフレーション理論を提唱された佐藤勝彦教授は1988年に、提唱時には明らかでなかった理論の様々な側面を研究された横山順一教授は2012年に、それぞれ井上学術賞を受賞されています。今回の受賞対象となった研究はこれら諸先輩方が切り拓いた道の上にあり、インフレーション理論の観測的立証への次の一歩を踏み出す力となります。」


小松 英一郎 氏 略歴
2001年 東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程後期修了
2001年 プリンストン大学博士研究員(WMAP フェロー)
2003年 テキサス大学天文学科助教授
2008年 テキサス大学天文学科准教授
(2008年2月- 2010年8月 東京大学数物連携宇宙研究機構客員科学研究員)
2009年-2012年 テキサス宇宙論センター所長
2010年-2012年 テキサス大学天文学科教授
(2010年8月-2017年3月 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構客員上級科学研究員)
2012年8月 マックスプランク宇宙物理学研究所所長
2017年4月 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・主任研究者(併任)

関連リンク
財団法人井上科学振興財団
小松英一郎氏 ウェブページ
マックスプランク宇宙物理学研究所

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2012年度ランスロット M. バークレー賞受賞 --小松英一郎上級科学研究員--
米国グルーバー賞受賞 --DAVID SPERGEL 主任研究員・小松英一郎上級科学研究員参加のWMAPチーム--
2011年論文引用数第1位に--小松英一郎客員上級科学研究員--
平成22年度 第25回西宮湯川記念賞受賞 --小松英一郎併任研究員--