小松英一郎シニアフェローが仁科記念賞を受賞

2022年11月11日
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)

ドイツのマックス・プランク宇宙物理学研究所所長で東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構シニアフェローの小松英一郎 (こまつ えいいちろう) 氏が仁科記念財団より、2022年度(第68回)仁科記念賞を受賞しました。

仁科記念賞は故仁科芳雄博士の功績を記念し、原子物理学とその応用に関し、優れた研究業績をあげた比較的若い研究者に与えられる栄誉です。我が国で最も歴史と権威のある物理学賞で、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈、小柴昌俊、小林誠、益川敏英、中村修二、梶田隆章の6博士もこの賞を受賞しています。
Kavli IPMUの研究者がこの賞を受賞するのは、小松氏が5人目です。これまでの受賞者は、Kavli IPMU機構長であり、カリフォルニア工科大学教授、ウォルター・バーク理論物理学研究所所長、アスペン物理学センター所長の大栗博司氏(2009年)、2022年3月までKavli IPMUの主任研究員であった東北大学ニュートリノ科学研究センター教授の井上邦雄氏(2012年)、Kavli IPMUの客員上級科学研究員であり、京都大学大学院理学研究科教授の中家剛氏(2014年)、そして同客員上級科学研究員であり、京都大学基礎物理学研究所教授の高柳匡氏(2016年)です。

小松氏の今回の受賞対象となった研究は「宇宙背景放射を用いた標準宇宙論への貢献」です。

初期宇宙の「インフレーション」と呼ばれる急激な宇宙膨張は、宇宙空間の大域的な一様性や等方性を説明します。しかし、それを標準宇宙論の主要な要素とみなすには、宇宙空間の平坦性や、ほぼスケール不変でガウス分布に従う断熱的な原始曲率揺らぎの生成などの、インフレーション理論の予言を定量的に検証する必要があります。

小松氏は、プリンストン大学のSpergel教授との共同研究を通じて、宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの統計性に注目し、非線形パラメータfNLという量を導入して、ガウス分布からのズレを三点相関関数によって定量的に評価する方法論を着想しました。それを宇宙マイクロ波背景放射探査衛星COBE(Cosmic Background Explorer)の観測データに実際に適用し有効性を検証するとともに、同WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)の観測データの解析に用いました。その結果、fNLは有意な有限値を持たず、原始曲率揺らぎはガウス分布と無矛盾であることを世界で初めて定量的に検証しました。

また、同時に宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎのパワースペクトルを詳細に解析し、断熱的な原始曲率揺らぎのパワースペクトルを測定し、インフレーション理論の予言を検証しました。その後のWMAPのデータの解析グループにおいても小松氏は中心的な役割を果たし、原始曲率揺らぎのスケール不変性からの僅かなズレを5σの有意度で検出してインフレーションモデルの選定に資するとともに、平坦な空間のもとでバリオン5%、コールドダークマター25%、ダークエネルギー70%という物質とエネルギーの組成を持つ「ΛCDMモデル」を標準宇宙論とみなす考えの確立に大きく貢献しました。

今回の受賞にあたり、小松氏は「このような歴史のある仁科記念賞の受賞者の一人に選んでいただけたことを、とても光栄に感じるとともに恐縮しています。推薦してくださった先生方、選考に関係された先生方、また、これまでご指導いただいた先生方に感謝いたします。私にとって基礎物理学の研究は、諸先輩方が長年に渡って果敢に挑戦し、切り拓いてこられた「物理学の地平線」を、世界中の仲間たちと共に押し広げることです。この受賞は、これからさらに地平線を押し広げるための力となります。」と述べています。

小松 英一郎 氏 略歴
2001年 東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程後期修了
2001年 プリンストン大学博士研究員(WMAP フェロー)
2003年 テキサス大学天文学科助教授
2008年 テキサス大学天文学科准教授
(2008年2月- 2010年8月 東京大学数物連携宇宙研究機構客員科学研究員)
2009年-2012年 テキサス宇宙論センター所長
2010年-2012年 テキサス大学天文学科教授
(2010年8月-2017年3月 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構客員上級科学研究員)
2012年8月 マックスプランク宇宙物理学研究所所長
2017年4月 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・主任研究者(併任)
2022年4月 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・客員上級科学研究員
2022年5月 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・シニアフェロー


関連リンク
仁科記念財団
小松英一郎氏 ウェブページ
マックスプランク宇宙物理学研究所

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2012年度ランスロット M. バークレー賞受賞 --小松英一郎上級科学研究員--
米国グルーバー賞受賞 --DAVID SPERGEL 主任研究員・小松英一郎上級科学研究員参加のWMAPチーム--
2011年論文引用数第1位に--小松英一郎客員上級科学研究員--
平成22年度 第25回西宮湯川記念賞受賞 --小松英一郎併任研究員—
2009年度仁科記念賞受賞 --大栗博司主任研究員--
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